二十二☆【前編(中)】犬なの?クマなの?……忘れないよ……。
人間でしょ?……。
柚葉は、やっぱりあんたは喋り出したわね……と言う顔で、
「……なんであんた今まで黙ってたのよ……」
「だって。しおんが喋ったら困るっていったじゃん!」
「言ったかもしれないけど!ならなんでベッドから視線をこっちに向けてたのよ!」
「だって。しおんが一人で遊んでなさいっていったじゃん!」
「言ったかもしれないけどっ!ならなんでピって鳴いたのよ!」
「だって。しおんがわしゃわしゃしてくすぐるから耐えられなくて吹き出しそうになって息が漏れちゃっただけじゃん!」
「あ、あんたねぇ……」
だらーんと脱力し溜め息を吐く柚葉。何かを諦めたのかその生き物とまともな会話を始める。
「色々と聞きたいことはあるのだけれど。あんたは犬なの?クマなの?」
「人間でしょ?喋れるし」
首を傾けながら視線はハテナな状態で柚葉が再び問う。
「う〜ん……名前とかあったりするの?」
「しおんは聞きたがりだな〜。えっと〜。あ!ぼくはジョセフィーヌ・ジローラモル」
「あはははは。あんた今、確実にあそこに掛けてあるコス部の服に付いてるネームプレートを見ながら言ったわよね?面白いわラモル。コウが泣いて喜びそうな名前ね。それとわたしの質問以外に無駄な私語は禁止よ」
眉をぴくぴくさせ口元も引きつらせながらも憤りを抑え握り拳をぷるぷるさせ柚葉がそう言うと、ぬいぐるみは不満そうに告げる。
「それじゃつまらないじゃん。せっかくしゃべれるようになったのに〜」
「あんたは楽しいかもしれないけど、わたしはこの現実をまだ受け入れられてなくていっぱいいっぱいなの!」
「それもそっか!わかった。なら僕がしおんにこれから優しくしてあげるし、護ってあげる」
「そ、そうね……まぁ、それもいいと思うけど……」
不意打ちに不覚にも心をノックされてしまった柚葉。頬を多少赤らめている。でも勿論素直にはなれずに孤独に身を置き自分を守ろうとする習性からか取り敢えずこの場から逃げ出そうとする。
「とにかく。ちょっと飲み物を取りに行ってくるわ……」
「はーい。しおんはかわいね〜」
どのように扱えば良いのか分からずお手上げ状態の柚葉。もう……あの生き物はなんなのよ。わけわかんないわ……抵抗するのに疲れたのか、どうでも良くなったのか面倒そうな表情だ。
「もうあんたの好きなように喋ればいいじゃない。わたしはひとまず頭を冷やしてくるわ」
「はーい」
ごく自然な笑みで返事をするぬいぐるみに柚葉の疑問は増えていく一方だが、そこはもう考えることを止め、さっさと階段を下り、リビングに入り冷蔵庫を開けた。
生憎と今日のこの気分に合う飲み物が無く、珈琲を淹れるためにお湯を沸かし始めた。柚葉がカップを用意すると隣に二十分の一サイズ程のカップを持ったラモルに気付く。暫く放置をしていたが、しおんがジト目でラモルに話し掛ける。
「ちょっと、あんた。もしかして部屋に一人だと……寂しいんでしょ?」
「ソっ!そんなことある訳ないでしょ!」
ラモルは見るからに焦っているのを柚葉は見落とさなかった。
「今、声、裏返ってたわよ。あんたわっかりやすいわね〜」
「僕は強いんだからそんなことある訳ない!僕もコーヒーを飲みたかっただけだもん」
「あんたも強がりね。あえてコーヒー飲める設定はなんかもう面倒になって来たからふれないわ。でもわたし、素直なこの方が好きよ」
「じゃあ……寂しかったというか。怖かった」
ラモルは多少考える時間が必要だったのか、決心する迄に時間を要したのか数十秒後に答えた。
幼少期の男の子のみたいに答えるラモルを柚葉は何故か自分の弟のように愛らしく感じてきてしまっていた。
「ふふ。素直でかわいいわね。なんで怖かったの?」
「一人だと変なこと考えちゃったり、不安になるでしょ?しおんはそうはならないの?」
「そうね。幼い頃はあったけど、今は部屋にいる時はいつも一人だから」
「僕もいつかそうなれるかな?」
「きっと大丈夫よ」
「やった!しおんがずっと一緒に居てくれればいいな」
「ふふ。あんた素直だとめっちゃ可愛いわね。よし。わかったわ!大丈夫になるまではわたしが一緒に居てあげる」
一片の曇りのない喜びの表情でラモルは柚葉の胸に飛び込んで行く。そのラモルを受け止め支えた柚葉。ラモルからは微かに土の匂いがした。それは嫌な匂いではなく何度も嗅ぎたくなってしまういい匂いだった。




