十九☆【後編(下)】楠高祭……誇りの大翼……。
出逢い別れ離れても離れない言葉…感触
「塗り変えてまおう」と彩れば
撥ねて落ちなくなり
左胸に染み付いた戸惑い
「声を掛け合いながら向かえていたのなら」
立ちすくみ思い返す今日は
ガラスに写る自分の姿に目を逸らして
次第に愛しさが弾け漂う
秋蜩静まることを知らずに
君の面影を思わせ
時を止めた夕凪
壊れてしまいそうな二人は…
love…love……
「あの日のように見つめていられたら」と
迫り来る思いに掴まれた
胸元は痛みを残しているから
「愛情」が虚しさを
表しているように聞こえた…音色
秋蜩鳴く頃に…
夜に揺られるすすきに
揃えていた歩幅…夕凪に
掠われてしまいそうな…足跡
柚葉の想い……。
「あの……わたしね……ママのやってたことを、やり残したことを調べたいの。わたしママのことあまり覚えてないから。でもきっとね……ママは悪いことをしていた訳ではないと思うの。何かの目的で魔術にたどり着いたんだと思う」
「そうだな」
柚葉からの相談はこれが二度目だ。一度目の合宿の夜の柚葉との記憶が一瞬で駆け巡った。夜になると柚葉は少し素直になるのだろうか。甘えたい気持ちが強まるのだろうか。それとも多少なり信頼されてきたのだろうか。そんな憶測がコウの中で飛び交っていた。
「何を調べればいいのかは全くわからないんだけど……協力してくれる?」
「どうした?おれだぞ?聞くまでもないだろ?」
「ふふ。あんたらしいわね。ありがと」
柚葉の視線。敢えての柚葉の「私よ」を真似たコウの言葉に微笑む柚葉。天邪鬼ではない素直さに、ホッとさせられてしまう。純粋に可愛いと思ってしまう……。
「それと……」
「ん?」
柚葉が一旦空へ逸らした視線……その『逃げ』のような自分の行動に抗うように柚葉が首を左右に振った……再び戻った柚葉の視線はしっかりとコウを捉えていた……
「わたし……もう隠せないし、隠す必要もないと思うから言うけど……あんたのことが好きよ。でも、なゆりのことも好きなの。楓も泰斗もちぃちゃんもえんじぇるの皆も大好きよ。こうして皆で過ごせる時間はあとどれくらいあるのかな……」
言い終えた後に柚葉がまた空へ視線を逸らした……コウはまた柚葉が泣いてしまっていないかを心配していた。
「そうだな。あともう少しで卒業だもんな」
「わたし。環境が変わってしまうのが怖いわ……」
素直過ぎる柚葉がそこに居た。コウは驚きと共に冷静に答えを探そうとしていた……
「皆が離れてしまうのもイヤ。離れたらこうして皆でいることは減ってしまうのかな……」
そこに居る柚葉は正に乙女そのものだった。柚葉にもこんな一面があることを想像できなかった訳ではないが、素直に守ってあげたい気持ちがコウの脳内を支配していた。冗談でこの場をおさめる選択肢はこの状況では皆無だった。
「俺たち次第なんじゃないか?環境は必ずいつか変わっていく。変わらないものなどきっと無いと思う。ただ、本当に失いたくないものは気持ちを繋ぐことで守って行けると思う。その気持ちが皆にあればきっと失わずに守って行ける筈だ」
「うん……やっぱりコウでよかった……」
「ん?何が?」
「教えない〜」
「何だそれ。まあいいけど」
光りを放つような……逆光の際に輪郭や髪が光りに縁取られるようなそんな笑みで……
少なくともコウにはそう見えた柚葉がコウの心をがしっと掴んでいた……
その拘束から意図的に逃れるようにコウが戯ける。
「この話題なら柊いても良かったんじゃん?」
「ううん。今日は二人で話したかったの」
「お、おう……」
楠祭後の高まった気持ちを冷ますようにそっと吹き抜ける夜風が心地良かった。嫉妬心がそうさせているのかはわからないが、柚葉との距離がまた少し近くなった気がした。柚葉がなゆりに向かい大きく手を振る。
「なゆりお待たせー!皆で話そー!」
「うん!今行くー」
柚葉を目掛け笑顔で走りながら近寄ってくるなゆり。柚葉と両手を取り合って話し始める。
「しおん!何話してたの?」
「だめよ!なゆりのも聞いてないんだからね〜。おあいこよ」
「えー!そうかもだけど。気になる……うう〜」
「ううう〜」
「ううう〜」
顔を寄せ合いながら冗談混じりに見つめ合い唸り合っている。そんな二人を見てコウが不思議に思う。
「あら?二人ってそんなに仲良かったっけ?」
「わたしとなゆりには切っても切れない深〜い絆があるのよ。ね〜なゆり〜」
「そうなの。桐宮君にはまだ言えないんだけど……」
楽しそうに告げた柚葉と申し訳なさそうに告げたなゆり。コウが髪を触りながら困ったように答える。
「もー。そーやってー。まぁ仲良さそうで何よりだけど」
楽しそうに先を歩く二人を後ろから見守り付いて行く。その二人を含めた景色はいつになく綺麗でで楽しげで……
秋の儚さに似たそれを心に焼き付け消えないように残そうとしばらく後ろから放心し眺めていた……
不意に冗談からか柚葉が急になゆりの方へ倒れ込む……
大変そうに支えながらなゆりが大きな声で柚葉を呼んでいた……
状況が理解できないままコウは駆け足で向かう……
「どうした?……柚葉!……柚葉!!」
「桐宮くん!わからないの!急に意識を失ったみたいに……」
「おう。きっと大丈夫だ柊……」
直ぐに病院に連れて行ったが診察の結果は原因不明……
ねむりひめのようにそのまま柚葉は目を開かなくなり……
早くも三日目が過ぎようとしていた……。
星と月と太陽から産まれた子★
十一★悲しみの三重奏
「ぅっ……ん?何なんだこの記憶は……頭が割れるように痛む……」
左腕に激痛が走る。物音に気付き太陽の子が駆け寄り話し掛けます。
「大丈夫?意識が戻ったの?良かった……」
「悪い……大きな声を出さないで。今、頭が割れるように痛むんだ」
「ごめん。でも、意識が戻って良かった。あなたに逢いたかった。奪われたものが戻ったの!ただ……」
太陽の子は月の子から直ぐに反らすように星の子を見ました。
部屋の隅に星の子は太陽の子が以前そうしていたように横たわっていました。
それを見た月の子。
「二つ確認をしたいんだけど……」
「何?」
「僕は魔王に負けたのか?」
「もう記憶は戻ったからそれはいいわ」
「……では、もう一つ。僕と君に戻った記憶。あの子にも戻ったということかな?」
「きっとそう。まだちゃんと話せてないからわからないけど、わたしみんなのこと、本当に大好きだったから……」
「……そういうことか……こうなるとは思わなかった。ごめん、少しだけ一人にしてほしい。君との約束と同じことを、僕はあの子とも約束している。色々と考えなければならないんだ」
「そう……だったんだ。仲がいいからそんな気はしてたけど……やっぱり痛むな。わたし。少し外に行ってくる」
そう言ってはにかみながら部屋を出て行った太陽の子。月の子は思うように動かない体を引きずりながら星の子へゆっくりと近寄りました。
「大丈夫?君にも……記憶戻ったんだろ?」
「今はまだ気持ちを整理できてないの!あ、私……突然大きな声出したりして……ごめんなさい」
星の子は重い足取りでゆっくりと部屋を出て行きました。
記憶を取り戻した月の子達……
二人のどちらかを選べば一方を悲しませてしまう……
月の子が葬ることを誓った太陽の子への想いの行方は……
魔王が愛する記憶を奪った理由は……身に覚えのある所作の真相とは……。
長い休止符の中で溜息のように漏れる月の子の呼吸と……
今まで高らかに奏でていたメインテーマを、記憶を手取るようにピアニシシシモで囁く星の子と……
忘れていた大好きだったメロディーを確認をするように押し殺しながら口ずさむ太陽の子の……
三つの悲しみが織り成すフレーズは、重なるとは言えない程の弱さで、繊細でいて互いを立てるように、決してぶつかり合うことは無く……
ただただ長過ぎる迷走のバラードが、夜の舞台で……
眠りを妨げる程の強さで……
止まること無く繰り返し流れ続けていた……。
第三章ED詩 破裂に花
潮の香り 火薬の匂いが
記憶を繋ぎ引き寄せていた
君の声が 止まらなかった
蘇る 君の風景
離してしまっていたんだ
細過ぎる君の手を
疑いを払えなかった
長い夜に終止符を置いた
途切れた想い 閉ざした誓い
果たされることのない約束が
終わりのない 失意の波へ
飲み込まれ 熱を失った
信じたのならば 戻れるのなら
何度でも呼び続けよう
もう一度 話せるのなら
余すことのない愛情を
今 会いたい…
闇を射抜き上がる光の線が
煌びやかな破裂を終えた
低い振動を君の深くまで
遥かな余韻で飾り…彩れ




