十九☆【中編(下)】楠高祭……誇りの大翼……。
なゆりの卓のドリンク……。
なゆりのお客はなゆりの可愛さに負けてしまうようで、基本緊張をしてしまうことが多い。
「あ、あのー」
「はい……」
「か、か、かのんさんは……ご趣味とかは?」
「ピアノを弾くのが好きです」
「そうなんですか」
「……」
この必要以上に長い間を埋めるべく、大抵のお客はドリンクに頼り手を伸ばす。「すみませーん!ドリンクおかわり!」なゆりの卓は平均して約二倍のドリンクの注文がある理由はここにある。
それでもえんじぇるになゆり目当てで通い続けているお客が多いから不思議だ。
忙しさからか目まぐるしい早さで約二時間が過ぎていた。
やっとのことで長蛇の列だったお客も無事にさばき終え、ホッと一息をついていると校内放送が流れ始めた。
「ハーイ!こちらはミスコン司会者の〜!トルネードミルクティーで〜すっ!ミスコンでは一切名乗らなかったけどねっ!そんなことはさておきミスコン授与式を始めたのだが参加者が数名不在だった〜ぁ!わぁ〜お!!せっかく出たのにねーっ!圧倒的に票数が多かった二人がいてなーんと!運命の悪戯なのかぴったし同じ票数だった〜!!現在ミスコン会場から生中継でお届け中なのでその二人には是非とも会場までカムバック!プリ〜ズっ!エントリーナンバー六番っ!エルちゃんと、エントリーナンバー七番っ!かのんちゃん!なる早でお願いっ!受賞者がいなくてまったりムードな会場を助けて〜!!シーユーっ!!」
部分部分ハウリング気味の大声でシャウト混じりに告げた司会者。コウが勿論食いつく。
「凄い司会者を見つけたな。てか思った通りと言うか仲良く二人共とはな。ジョセとかのん!行かなくていいのか?なんか貰えるかもよ!なんか貰ったら推薦人のおれにちょうだいよね」
「そうね。ってあげないわ!丁度お店も片付いてきたし行ってもいい?かのんも行くわよ!」
「えー。またこのままでかぁ……やっ、やめっ!きゃー!」
ほぼ拉致に近い強引っぷりで再度柚葉に連れられるなゆり。コウが多少心配そうに見送る。
「はは。今日は随分と忙しい一日だな」
学園祭直後……。
「ちょと涼んで来るって言ってからなゆりが戻らないのよ……」
楠高祭を終え打ち上げをしている時になゆりが、一人で姿を消していた。そのことを知りコウはなゆりを探し始めた。
もしかして……コウは心当たりがある場所へ向かった。するとそこには何か切なさを感じさせる後ろ姿で土手に座りぼーっと何かを眺めているなゆりが居た。ここは二人の始まりの場所だった。それぞれがなぜか足を運んでいた……。
「桐宮くん……」
なゆりの表情がほっとするように緩む。いつもは自分から話すことは少ないなゆりだが今日はなゆりから口を開き始める。
「ここから始まったんだよね?」
普通ではないなゆりに気付きコウも今までを思い返していた。ある朝に偶然に会った美少女と秘密の共有をした。それから大きく変わり始めた日常が本当に輝いて映っていた。
「そうだな。実際はここが二度目の始まりの場所だったんだよな。色々あったよな……なんか今思い返すと一瞬だったけどな」
今までの日々が駆け足で巡る。学園のアイドル的存在のなゆりは最初は声が低かった。今はこんなに近く、同じ時間を過ごすことが当然になっている。
夏の日に約束をした。
「柊……おれとずっと一緒にいて欲しい……もう離れたくない……おれは柊を信じている……このままのおれでいいか?……」
「はい……私もそれを望むわ……私もこれからも桐宮くんを信じるわ……約束します……」
真っ直ぐな眼差しでなゆりは応えてくれた。それから目に見える全てが優しさの膜に包まれるように変化を遂げた……。
なゆりがゆっくりと答える。
「そうだね。私ね。コス部のみんなが大好きなの。打ち上げをしてたらなんか寂しくなってきちゃって……考えごとしながら歩いてたらここに来ちゃってたの」
なゆりが俯き表情が見えなくなる……月の光はそれでもなゆりを照らし続ける。晩秋の肌寒いそよ風が二人の間をすり抜ける。その風になゆりの髪が流れるように舞った……その髪を押さえながらなゆりがまた話し始める。
「私ね。桐宮くんに聞いて欲しいことがあるの……」
「お、おう……」
夏の日を思い返してしまったからか、必要以上に意識をしてしまうコウ。呼吸を止めていたことに気付き、なゆりに気付かれないように、一度深呼吸をし、冷静さを取り戻そうと試みる……




