十九☆【中編(中)】楠高祭……誇りの大翼……。
楠高祭えんじぇるサイド……。
コウが辛うじて引きつり笑いながらも接客を続けていた……。
「ねーねー。おれの嫁、ジョセたんまだ来ないの?折角仕事も休んで楠祭えんじぇるに来てるんだからね。ねーねー」
普段のえんじぇるのお客が楠高祭バージョンを楽しみにしていたらしい。尚且つ柚葉指名での来店の常連さんだ。ちぃも美羽ママも楓もフルスロットルに接客を続けている。マスターも冷静に次々に仕事をこなしている。
「只今、丁度ミスコンに出ていましてまもなく戻りますからご安心下さい」
コウが適当に時間を稼ぐ……やばい。そろそろほんとにやばい……。
「泰斗頼む!指名のご主人様がお待ちかねだ。ジョセとかのんを迎えに行ってほしい!」
「ああ!この場では一番俺が役立たずだからな。任せろ!」
近くにいた泰斗にコウが迎えを頼んだ。その直後。
「すみませーん。さっきミスコン見てきたんだけど。さっきの二人はいますか?」
「そろそろ戻ります。順番に御案内しますので少々お待ち下さい」
「すみません!さっきのジョセフィーヌと話したいんだけど……」
「畏まりました。あちらが最後尾になります順番に御案内しますね」
「あのーかのんちゃんいますか?」
「はい!……順番に!」
「ここってえんじぇるですか?」
「はい!……」
「……」
「……」
「」
そして三十分後……。
「うぅぅ……そろそろ本気で処理しきれんな……」
コウが早めの対応で十分制を急遽五分制に変更する断りを御主人様達へ漏れなく伝え終えた辺りでようやく二人が戻ってきた。
「うっひゃー!コウ!何よこのお客の数?」
「いやー。予想通りと言うか……まぁあれだ。やばばばい。なる早で先ずはジョセは三卓へ行ってくれ。常連らしいから多分行けば分かる筈だ」
「あんたも中々様になってきたわね。了解っ!」
「ジョセ!とにかくあれだ。無理してもしょうがない。楽しまなければ意味もない。楽しくやろうぜ!」
「当たり前じゃない!任せて!……コウ!ありがと!」
振り返りながら柚葉が笑みを咲かせ小走りで三卓へ向う。
「桐宮くん大丈夫?疲れてるみたいだけど……」
「あはは。さっきのさっきまで圧力に押し潰されそうだったけど、二人が帰ってきたからぜんっぜんだいじょ〜ぶ!あと三日はこの波に揉まれたいね。それ、多分死んじゃうね!あ。そんな余裕無かったんだった!かのんもういける?御主人達が長蛇の列なのね。そしてかのんとジョセ指名がざっと八割位なのね。結構お待たせしてしまってるから順に案内してもいいかな?」
「うん。わかったわ」
「かのんも無理しないように!楠祭!楽しもうぜ!」
「うん!」
「あ〜!に〜!楓には?なんか言って!」
「ばか。楓の茶目っ気があったからこそおれがまだこうしてこの視線の重圧に耐えれている。楓も大丈夫か?」
「ふふ。全然大丈夫やし〜!にーと一緒に仕事出来ておもろい!」
お客からは見えない離れたスペースにいたので、コウは楓の頭を撫でながら告げる。
「楓の笑顔は元気をくれる。もう一踏ん張りいけるか?」
「あいあいさ〜!」
「よし!皆で楽しくやろうぜ!」
コウがちぃ、マスター、みうママ、泰斗、の様子を伺い、必要に応じフォローする。そしていつも通り痩せちゃう痩せちゃうと零す邦正だけには、「邦正はあれだ。とにかくあと三キロ痩せてから考えよう」と、お約束で厳しめに伝え皆の笑いが溢れた。
忙しさの真っ只中だがみんなが楽しそうなのが何よりだった。
ふと気付くと柚葉に視線を向けてしまっている泰斗。意識して他に視線を向けてはみるが直ぐに戻ってしまう。胸が詰まり溜め息漏らす。他の男と話す柚葉を見て嫉妬心に苛まれる。
「泰斗ー。このごみお願い〜」
「お、おう!」
不意に柚葉に呼ばれ平常心に戻る。お客と話す柚葉の会話が聞こえてきた。
「エルちゃん後夜祭で一緒にデュエットしてハモろうよ〜おれ歌に自信あるんだよね〜」
「あんたばかなの?そんなことしたら仲良しみたいじゃない!」
「うわっ!きたー!エルちゃんってやっぱりツンデレちゃんなの?」
「あなたにデレた覚えは無いわ!」
「そんなこと言ってるとー、肩トントンをエルちゃん指名で頼んじゃうよ」
「そんなことしたらデュエットは夢のまた夢となり消えるし、以後は私、無言になるわよ」
「すみましぇん……でもエルちゃんに罵られて悪い気しないのは何故だろう」
「ふふっ。あんたのその素直なところは認めてあげるわ」
「想像通りの上から目線だぁ〜!」
そして時間経過のタイマーが鳴る。お客が時間の経過の早さに驚く。
「えー!!!はやっ!」
「光栄だわ。わたし達は普段このチラシのえんじぇるって喫茶店でやってるの。またここに帰って来なさい。御主人様」
「は、はい。そのツンキャラから発する御主人様ワードとのギャップ。やばっ!」
なゆりの卓の声も聞こえてくる……。




