十九☆【前編(下)】楠高祭……誇りの大翼……。
バンド名?……。
お客の表情だけでも楽しんでくれているかどうかは簡単に感じることができる。評価はかなり高めのようだ。
大忙しな分、時間はあっという間に過ぎていた。オープンから数時間経ちコウが思い出し告げる。
「おい!ジョセフ・アン・エル!そろそろじゃないか?」
「うわ!もうこんな時間じゃない!ってそのバンド名みたいな呼び方やめなさいよね!!行くわよかのん!」
「え!こ、このまま?」
「そうよ!このコス姿の方が良いアピールになるじゃない!」
「そんなぁ。私。やっぱり自信ないよ……」
「大丈夫よ!かのんは可愛いから」
「そんなことはないわ。ジョセフの方が可愛いし素敵だわ」
「おいおい。今は譲り合ってる場合じゃない!二人ともグランプリ候補だと噂されてた位だからかなりいいとこまでいくと思うぞ。二人共えんじぇるの宣伝を頼んだ!」
「任せなさいっ!ほら行くわよ!」
「ちょっ!えっ、あっ、まってー!」
柚葉に手を引かれなゆりは無理矢理に連れて行かれてしまった。
「ははっ、相変わらずだな」
コウがそんななゆりや柚葉を見てこの楽しいやり取りに浸っていると直ぐに現実に戻される。
「すみませーん!肩トントン追加で!」
「はーい!肩トントン入りましたー!!指名の場合は別料金ですが、お好きな子を独り占めできます。如何しましょう?」
「ひ、独り占め……なら。ちぃちゃん指名で!」
「ありがとうございます!ちぃちゃん三卓に肩トントン指名で!」
「コウくんも段々様になってきたわね〜」
「うむ。真面目にやってくれてるのう」
コウのお客さばきを見た美羽ママが嬉しそうに告げ、マスターもそれに答えた。
雑務担当の泰斗と邦正もしっかりマスターのフォローやゴミ出し、写真やポスター補充等軽快に柔軟にこなしてくれている。
一方柚葉サイド……。
手を引かれたまま会場へ連れて行かれ、ぎりぎりで間に合った二人。
「はぁ……はぁ……あ!私、バッグも持ってないからお化粧も直せないんじゃあ……」
「かのんはノーメイクでも大丈夫よ!それくらいのハンデを皆に与えてあげなさい。フフッ」
「そんなぁ……私。緊張してきちゃった」
「ダメよ!大丈夫だって。かのんなら黙っていてもグランプリだわ。わたしに考えがあるの。取り敢えずわたしに任せなさい!」
「う、うん……」
「皆さーん!準備はいいかーっ!!第十二回楠高祭ミスコンテストを始めるーぅ!この楠高祭のミスコンは他者から推薦された方のみに参加資格があるんだ!自選はなんか良さが薄れね?……と言う理由でNG!!却下ーっ!!!それではお待ちかね!全校生徒からの選りすぐりの十名!!壇上へかもーんーー!なうっ!」
コンテスト開始の合図を司会者が声高に告げると辺りの観客が熱い声援を送りはじめ会場は大盛り上がりだ。
テンションだけで押し切ろう精神な司会者。熱意の入った声が時々裏返っている。「あの司会者絶対に声枯れるぞ。あと、英語苦手だろ」と、観客は温かく見守っている。
この会場を熱く沸かせる為にこの司会者はぐっじょぶだ。
「さぁ〜て!今回はアナログな決め方で〜オーディエンスの皆が今手にしているカラーボール〜ぅ!こいつをオーディエンスの皆は一人一つ「この子が好き!」って子に投票するだけっ!単純明快だねっ!そのカラーボールの数が一番多ければグランプリだーぁ!!アーユーレディ〜?」
「「「「「「「「「「おおおぉぉぉーーー!!!」」」」」」」」」」
「皆いいぜいいぜいいぜ〜ぇ!始めちゃうぜーーっ!!では先ずはエントリーナンバ〜一番っ!壇上の中央でアピールしてもらおう!アピールタイム〜〜〜ぅ……スターーーァッ!!!」
一番手がアピールの最中。柊と柚葉サイド……。
「うひゃーあの子急に歌い出したよかのん!」
「ぇええ!……私、何も出来ないよ……」
「だからかのんは『私、人見知りで……アピールタイムなのに何も出来なくてごめんなさい』とか言って、その後に『コス部の部室で喫茶店をやってるから良かったら遊びに来てください!』でグランプリよ!」
「待って!メモする……」
「真面目かっ!」
かな〜りこの状況を楽しんでいるドS柚葉。
「もう。かのんってやばいわ〜。心を射抜かれたわ〜。カメラを持ってたらその男心を鷲掴み離さなそうな困り顔を気が済むまで切り取り続けてたわ〜」
「もうやだよ。涙出て来ちゃう……」
「それももう壇上で言っちゃえばいいのよ。男って恥じらう女の子の姿がたまらないらしいわよ」
「でも、恥ずかしいもん。しかもメイド服だし……短いもん」
なゆりの瞳の中で不安が波打っている。唇を尖らし眉がピクピクと痙攣を始めるなゆり。口元があわあわし始めた。




