十九☆【前編(中)】楠高祭……誇りの大翼……。
円陣?……。
「よーし全部で九人か。このメンバーでこうして一つの成功に向かうのは初めてだ!結果が全てではないが、おれたちが楽しんでやることがきっと成功に繋がる筈だ!ここで再度利益を得て冬の温泉旅行と洒落れこもうぜー!!!」
「ぬおおおお「「「「「「「「おー!!!」」」」肉ぅー!!!」」」」」
それぞれが目配せを交わす。
「何?このばらばら?何?肉ぅ?」
泰斗が不思議がっていたが、他の皆は笑っていて楽しければそれでいいと言うような顔をしていた。「ぬおおおお」は勿論、邦正だ。
「ばら肉じゃない?」
「そうそう。ばら肉」
邦正がよりややっこしくしようとしたので、コウが肯定し更にそれに追い打ちをかけややっこしくする。
「みんなで旅行いきたいな……」
なゆりが夢見る少女の表情で遠くを見つめながら呟いた。乙女の祈りのような視線をコウに向けるなゆり。その視線からコウは逃れる術はなく心を揺さぶられる。顔が熱くなり、おそらく高まっている筈の体温を、表情になるべく出さないように平静を装う。
「ああ。そうだな。みんなで作ろうぜ!レジェンドを!」
「あんた本当にモチベーションを上げるの上手いわよね」
「そうか?おれは純粋に自分と皆が楽しめるように考えてるだけだ。よしっ!では戦略を共有する!おそらくこの長蛇の列は限定生写真を目当てに並んでいる筈だ。写真は言うまでもなく有料で販売する」
「ちょ!ちょっと待った!なんの写真使ったのよ?」
「ジョセの撮ったベストショットに決まってんじゃん」
「あ、あんたねぇ……」
柚葉が先ずは安定しない呼び方にイライラを隠せずにいる。それだけではなく勿論、生写真に引っかかっている。
「なんでわたしに相談はなしなのかしら?」
ピクピクと眉が引きつっていて何か負のオーラを纏い始める柚葉。コウは割と普通な素振りで答える。
「思い立ったの深夜だったし〜サプライズ的なこともありかなとか思ったり?」
「なんで疑問形なのよっ!」
「だって威圧感パないもん。って、そうじゃなくてっ!もう始まっちまう!きっと今までのえんじぇる以上に混むと思う。なので今日は時間を十分制にするべきだと思う。時間制限を作り回転率を上げる。邦正に頼んで事前にホームページにも時間制にする可能性は告知してもらっている。おれも今日を無事に皆が楽しんでもらえるように、不慣れながら全力でサポートするつもりだ。なんでも言ってくれ!そして今日の十三時から楠高祭の恒例行事のミスコンテストがある。それにはコス部全員は出られないが、かのんとジョセには出てもらう!その宣伝効果を期待して客数を増やす策だ」
「私、恥ずかしくて出られないんじゃ……」
「大丈夫だ。他者推薦で参加させられた、かのんが恥じらいながら受け答えるだけでいいんだ。それがかのんの才能とも言える魅力を引き出せている瞬間なんだ」
「上手くできないよ……」
「上手くなんて出来なくていい。わんぱくでもいい。普通のかのんでいいんだ」
「いや、わんぱく面白過ぎだろ」
泰斗の冷静な突っ込みが懐かしい。
「う、うん。そこまで言うなら。頑張ってみる……エルも出るでしょ?」
「当然じゃない。コウの狙いはきっと間違ってないわ」
時間の無さと、緊張感が『怒り』に勝り、柚葉の真面目スイッチが入ったようだ。
「よし!決まり!あ!時間やばっ!じゃあ他は段取りどおりで!もう開けるからな!!」
コウが部室の扉を開くと、待ちに待っていたお客が足早に入って来た。
「おかえりなさいませ。御主人様」
これがえんじぇるでのお客を出迎える挨拶だ。
「あのー。限定写真を欲しいんですけど……」
柚葉の表情が若干引きつって見えたコウ。何かに不満を訴えるように柚葉が淡々と告げる。
「畏まりました。ただ限定生写真は先程一足早くお戻りになられた御主人様が全て買い占め……」
「ちょーっと待ったっー!!ジョセ!写真はおれに任せてくれ!あちらのお嬢様を頼む!」
「畏まりました……コウめ」
営業スマイルで答えた柚葉。畏まりました……の後はコウにしか聞こえない程度の声量で、邪悪な気配を纏い囁いた柚葉。お客様へコウがフォローを入れる。
「御主人様をお待たせしてしまった上で早速の品切れでは申し訳が立ちません。先程新たな限定枠を作りましたので、生写真、全く問題ありませんのでご心配なく。お買い上げありがとうございます!」
柚葉はまだ自分が目を通していない写真が出回ることが面白くないのだろう。よって写真担当はコウに決定。そして柚葉が写真対応をし、柚葉がお客をさらっと受け流していないかのチェック担当もコウに決定。
「あははは。こりゃ、おれ、忙しくなりそうだぞ……」
十分制と言っても必ず十分で出て行くわけではない。今回の楠高祭えんじぇるではオムライスやサンドイッチは無しで、食べる物は焼きそばとホットケーキに絞った。『焼きそば』や『ホットケーキ』を注文したテーブルはプラス十分だ。他にも『肩トントン』を注文でトントン一分プラス九分延長で計十分の延長だ。
柚葉の限定生写真絡み以外の接客は本当に洗練されている。なゆりや楓やちぃやみうママそしてマスターはやはり動きが様になっている。コウがウェイターの仕事に慣れるまでの写真担当と柚葉チェック担当は丁度良かったのかもしれない。お客の声が所々から聞こえてくる。
「うひゃー。めっちゃかわいいじゃんあの子」
「だよね。かのんたんまじ天使」
「これ、アイドル級だよな!普段もこのメイド喫茶はやってるんだってさ。おれやばいかも。さっきおれ目が合ったし……むふ。おれ、通っちゃうかも」




