十八☆【後編(上)】泰斗の記憶……文化祭準備……。
文化祭準備……。
「ちょっと。そこ持ちなさいよ」
「お、おう」
「このテーブルクロスどうする?」
「それは必須ね。持って行くわ」
「しおん〜!このグラスどうしよう?」
「それは紙コップの方が妥当よね。いちいち洗ってられなそうだから持っていかないわ。マスターこの器具は持って行くのよね?」
「うむ」
「わかったわ」
文化祭えんじぇるに向け持って行くものの仕分けをしている放課後。
「そう言えば太めなイケメンは今日はどうしたのかしら?」
「あはは。柚葉今日はスイッチはいりまくってるな。あー。邦正は家の方がパソの何かが何でどうとか言って部屋に引きこもってる」
「かわいそうになるくらいに重要なところがぜんっぜん記憶に残っていないわね……PCの処理能力的なことかしら?まぁいないならいいわ」
さらっと柚葉に見切られてしまう邦正。
「コウ!これ持って!」
「了解!暴君!!」
「あっはは。おもしろいわ!それは宣戦布告と言うことでいいのかしら?」
引きつり笑う柚葉。その威圧に気圧されるコウ。
「滅相もございません……」
「また桐宮くん。そうやってふざけ合ってるうちに喧嘩になっちゃうといけないよ」
「あーい」
「に〜何やっとるん?」
「うーんと……暴君ごっこ?柚葉がやりたいって」
「言ってないわ!!」
柚葉が間髪を入れずに答えた。ジェラシーなのか楓も遊びたくなってしまったようだ。
「ズルい〜。あちしもなんかやる〜!」
「よし!じゃぁー。走るか?」
再度柚葉が間髪を入れずに答える。
「ダメよ!!」
「この仕分け作業を今日までに終わらせないと。明日は文化祭!決戦の日よ!」
「あーい。柚葉ってやっぱり柚葉だよな」
椅子にあぐらをかき頬杖を付くコウ。その姿勢を真似ながら応える楓。
「に〜。世知辛い世の中だね〜」
「走りたくても走れないおれたちって……首輪で繋がれている犬っころと一緒だよね〜」
「何か言ったかしら?」
柚葉が梱包をしようとしていたものをテーブルにドンと置き眉毛をひくひくさせ答えた。
「いえいえ……わんっ!」
「あ!に〜うまい!わんっ!わんっ!」
二人で急に盛り上がりモノマネ大会が始まってしまった。
「あ。おれいいこと思いついた。吠えたくても面倒だから口をほとんど開けずに吠える犬っころやります……ぶんっ!」
「きゃはははっ!しゅ〜る!」
「だろ?暴君の思うようにはさせんのじゃ!」
「あら、そうかしら?口を開きたくても開くことを許されない犬っころにでもなってみる?」
「……」
「えっと。どのような意味でしょうか……?」
「首輪で繋がれて吠えることさえも許されずに口も開けぬまま一日が終わるのを待つだけの犬っころになってみるかどうか聞いてんのよ!!」
「ぎゃー!!……ぶんっ!」
「きゃはっ!に〜怒られるよ〜」
「大丈夫だ。これは吠えたんじゃない。咳だ!」
「咳してる犬っころなんて見たことない〜」
「だろっ!新世界を開拓したフロンティア犬っころだ……ぶんっ!!」
「きゃはははっ……ぶんっ!」
真似っこ楓が一緒になってフロンティア犬っころをしている。
「あははっ。上手いな!さっすが楓!我が血を引き継ぐものぞ!」
「もう。桐宮くんもしおんも楓も……また喧嘩しないでよね……」
ぎりぎりを攻めようとするコウをなゆりが気遣いフォローをする。柚葉がイライラでプルプルしている。その瞳は真紅に染まり体の周囲を邪気が纏っている。
マスターが騒がしさに気付き近寄って来た。マスターがコウに問い掛ける。
「もう色々と手筈は整っとるのか?」
「ああ。ばっちりだ!邦正ママに確認を取ったところ、どうやらママはあの会社ではかなりの位置らしい。そしてママはなぜかおれに弱いらしい。日常的な会話をしていただけだが、また特集を組んでくれると言うことと、表紙にえんじぇるの文字を載せ宣伝をしてくれることと、SNSで校内えんじぇる始動の告知の拡散を約束してくれた。かなりの待遇だ!またえんじぇるの女性陣にも会いたかったらしいしな。ありがたいことにママの中でこのえんじぇるのメンツがちょっとしたアイドル的な存在みたいなんだ。トントン拍子で二週間前にその取材も無事に終えたし、邦正にはまたホームページの更新を、「女性陣が求めて止まない……きっと求めているのはホームページの更新だけではなく……邦正だ!待たせてもいいのか?」と、言ったら一日でやってくれたし。柚葉の爺のラッピングカーも「今回は三倍増しじゃ!」とのことだし。柚葉はいつも通りに頼りになるしな」
「っ……」
「うむ。順調そうじゃのう。店のこの貼り紙の問い合わせも多いしのう」
えんじぇる店内にポスターを連張りし、『校内えんじぇる始動』の文字がズラーッと連なり煩いほどに主張をしている。このポスター作成者は勿論柚葉だ。
さりげなく聞いていた柚葉の邪気眼モードが解除され普通のモード……いや、照れているのか髪を触り始め違和感のある動きになり、皆には聞こえない小さな独り言を漏らした。
「何よ。さりげなく褒めたってダメなんだからね……」
「あの……そろそろ皆お腹空くかなーと思ってパンを焼いたんだけど……」
「あ!「食べるー!!」何かいい匂いすると思ったら柊か。柊の女子力は宇宙規模だな。コスモ柊だな。あ。なんかガソリンスタンドみたいになっとる」
コウと楓が一緒になってなゆりのパンの香りに魅了され答えた。ただ、楓の様子が今日はちょっとおかしかった……。




