十七☆【前編(上)】白でも黒でもない色……たーっまやー!……。
それぞれの想い……。
なゆりはあれから一週間、この状況から逃げずに冷静に向き合えるように一人ずっと考え込んでいた。全てを塞ぎ込み、やっと導き出した答えがあった。
ただ、なゆりはこの状況を沈黙のまま続けるのを心苦しく感じていた為、柚葉に「私は皆が大好きなの。相談があるの」とだけ書いたメールを送った。それを受け取った柚葉はそのメールを確認した後に暫くの間スマホを抱き締め続けていた。
そして柚葉が選んだ返信の言葉は「私も直接会って謝らなければならないと思っていたの」だった。
そのやり取りから時間を合わせ近くの公園で二人だけで話しをすることになった。夏の夜の虫の音が煩い時期は過ぎ、最近の夜は少し肌寒くなり、今日はコオロギやひぐらしが羽根を擦り合わせる音が聞こえてくる。街灯のある公園入り口で二人は落ち合い、ごく自然にブランコに向かい隣同士に座る二人。なゆりから話を切り出す。
「そう言えばこうしていつも二人で話してたよね?」
何か不満そうに柚葉が答える。
「あんたって本当にいい子よね……それって自分の好きな相手を私が先に好きになってなゆりに相談をした失くしていた記憶のことじゃない」
「でもその時はまだそんな気持ちじゃなかったもん」
「それは分かってるわよ。どうして私を責めようとしないのよって意味よ……」
柚葉は呼吸と共に溜息のような言葉を投げ掛けた。それでもなゆりの優しさを映した表情は少しも変わらずに言葉を紡ぐ……
「誰が悪い訳でもないと思うの。普通では決っして狂わない時間の流れが狂ってしまったようなものだもの」
「それはそうなんだけど……」
「でもそれを言うならしおんだって私を責めようとしなかったわ。あんなに泣いていたのに……それなのに今日も謝らなければならないだなんて……私、失くしていた記憶を思い出してから分かったことがあるの。私ね……引っ込み思案な性格から桐宮君に会うまでずっと一人ぼっちだったの。初めて会った人とは全く話せなかった。しおんが私の初めての女の子の友達と言える存在になってくれた……しおんに会ってから毎日が急に楽しくなったわ。更に素敵だと感じたことは記憶を失くしていてもこうしてしおんに会えた。そしてまた友達になれた……また毎日が急に楽しくなったの。これが特別なものでない訳がないわ。だから私はしおんのことが本当に大好きなの」
最後の言葉と同時にブランコを飛び降り振り向いたなゆり。
心からの本音を伝えると感情が高まりその思いが熱に変わりそして涙に変わることがある。なゆりの丸い瞳の中には既に沢山の思いの粒が波を打っていた。それでも微笑みながら思いを伝えようとはにかむなゆり。
「なゆり……」
そのなゆりの表情に柚葉は心を握られているような、揺らされているような感覚で苦しかった。
なゆりから目を反らせなかった。見つめているうちに目の前が滲んでくる……その表情を恥じて隠そうと視線を空に移した。それでもなゆりの思いは柚葉の閉ざしていた扉をノックし……開いた……
「わたし……実はね。その頃ずっと愛する気持ちを失う未来に怯えて過ごしていたの……」
そう言って柚葉は空を見上げたまま続けた。なゆりは柚葉の本音を話す時の仕草を覚えている。記憶が流れ込んできた時の理由を聞いた時もそう。前にコウへ告白をする相談を受けた時も同じだった。視線を他へ向けて本音を並べていく。柚葉が続ける言葉をなゆりは一字一句逃さぬように聞き入っていた。
「ひょんなことから魔術の書を手にして『魔術』の力を試そうとしたの……一番簡単に確認出来そうなものを選んだの。それが未来を覗く魔術だった。そして覗いた近い将来に愛する思いを失くしてしまうことを知ったの。わたしは、いつか失くしてしまうのならば、いっそのこと始めから手にしない方がいいのかもと、思い始めていた……それからは出会う人全てが『どうでもいい存在』に変わってしまったの。そこまではまだそんなものだろうとも思えていたの。でもその考え方から悪く連鎖してしまったのは、今まで側にいた友達でさえもそんな風に接してしまっていたわ……自分ではそんなつもりはなかったのに表情や仕草がそうしてしまっていたみたい。そしてわたしの周りには幼馴染み以外に誰もいなくなった……そんなわたしが一番閉ざしていた時期にコウに出会ったの……最悪な出会いだったけどね」
柚葉は憂鬱な顔色に不自然に微笑みを浮かべながらその時のことを端的に語る。
「あいつはそんなわたしを見切らずにごく普通に接してくれた。と言うよりも一方的に土足で踏み込んで来た。その頃のわたしにはそれがとても嬉しかったし、有り難く思えたの……嬉しく有り難かったのはなゆりといる時間もそうだったわ……あの頃、皆といる時間が本当に大好きだったの……だから……その……」
「ごめんね……」
柚葉がばつの悪そうに告げた。




