十五・五☆【後編(下)】エピソードゼロ……。
雲ひとつなく晴れ渡る青空の日に……。
それから四人は一緒に遊ぶのが当たり前になっていた。毎日のように一緒に遊び、いつも通りに一緒に過ごした。なゆりは二週間が経ってやっと柚葉に心を開くことができた。そして『コウが強引に……』の真相を伝えると柚葉は『あいつらしいわね』と笑った。
柚葉は幼い頃に母が失踪していた。母が健在だった頃に『あなたの場所を探しなさい』と告げられていたことを思い出した。当時小二だった柚葉はその意味を全く理解出来ずにいた。
きっとこんな場所なのかなと柚葉が考えるようになった頃には、柚葉の中に在った『切なさ』はダージリンティーに垂らしたミルクのように滲み薄められていた。
やがてその薄まったものが『切なさ』とは認識できなくなった頃、柚葉の胸中に密かに芽吹いていた希望や友情や愛情があった……。
その愛情が花開く頃にはいつも四人で遊ぶ日常に安らぎさえも在った。
それは魔術で知らされた未来への恐怖さえも忘れさせる程に楽しく、有意義な時間だった。
ある日柚葉がその愛情をコウヘ伝えようとするとコウもその気持ちに応えてくれているような優しさを感じた。
そうして走り出した愛情はもう止めることは出来ずにコウを求めた……。
雲ひとつなく晴れ渡る青空の日に……。
「わたし……ずーっとコウのことが好きだったの。もうあまり離れたくないわ。だからこれからもわたしと一緒に居てくれる?……」
柚葉が皆の前でコウに告白をした。
肝が据わっているように聞こえる言葉選びとは裏腹で、頬を赤らめながら多少視線を泳がせているその表情や仕草は柚葉のプライドの強さから来ているのだろう。実に柚葉らしい。
コウはこの頃には無意識のうちによく柚葉を目で追っていることに気づいていた。
四人で話している時も妙に柚葉と視線が合い、そんな時の柚葉の楽しそうに話す姿から目が離せなくなることが多くなっていた。
柚葉の好意を感じたのはこれが初めてではなく、ひょんなことから少し手が触れてしまった瞬間や、歩きながら互いの肩が触れた時、四人で遊んでいる最中のチーム分けをした時の笑顔の多さや会話のイントネーションの違いで、次第に二人の距離が近くなっていることを直感的に感じることが出来ていた。
決定的だったのはなゆりから急に柚葉のことをどう思っているか聞かれた時だった。
この頃はまだコウへの思いを恋愛感情と捉えていなかったなゆりは、柚葉から事前に相談を受けていて、柚葉からコウの気持ちを探って欲しいと頼まれていた。
なゆりは柚葉が頼ってくれていること、相談を持ちかけてくれたことが嬉しくて全力で応えようとする。
だが不器用ななゆりにうまくコウの気持ちを盗み聞くことなど出来る筈もなく、バレないように聞き出そうとしているなゆりが妙に明らさま過ぎて、そのことをなゆりへ伝えてしまうとかわいそうな気がして、コウの方が気を遣い言葉を選んで答えてあげたくらいだった。
その分、コウの柚葉への気持ちもこの時にはしっかりと頭の中で整理が出来ていた。
いつになく真面目に真剣な面持ちで応えるコウ。
「もちろん。約束する。ずっと大切にしていた『気持ち』があるんだ。これは柚葉に届けていたい」
遅かれ早かれこうなると思っていたなゆり。二人を迷い無く祝福する。
「とっても素敵!心から応援するわ」
照れているような視線をそれぞれがそれぞれに送りあっていた……。
太陽が沈み辺りは暗闇に包まれた静かな夜に……。
真っ暗な中に輝く星を見上げている二人。
遠くも近くもない距離で間隔を保っている。
柚葉が気持ちを伝えた直後が故の距離間。
地面に座る訳ではなく、大木に寄り掛かり膝を曲げ腰は地面から浮かせている柚葉。
何かを思い立ったように急に立ち上がり大木に向かって何かを始めた。
「ん?柚葉。何してるんだ?」
「こんなに大きな木ならずっと無くなることはないのかなぁと思ったの。このわたしの好きな場所にコウが忘れないように彫って残しておこうかなぁって……あとはちょっと自慢したいのかな?今日の約束の記念よ」
「おれが忘れるわけないだろ。しかぁーし!おれもかーく!……こーしてー。こーしてー。あ。いつも呼んでる苗字の方かいちった……」
「ふふっ。でもその方が自然なんじゃない?」
柚葉の彫った字の隣にコウが『柚葉』と彫った。
「明日や明後日のことではなくて、これからずっと先の十年、二十年と時が経ってもこの日を忘れてしまわないように刻んでおくの……今日の日付を入れて……よしっ!」
「そうだな……でも二十年経ったらそれこそ忘れないだろ」
「まぁ確かにコウなら忘れないでいてくれそうだわ」
「なんだよ。それいい意味??」
「どうだろうね〜?教えなーい」
「もーう。あ。そろそろ時間遅くない?帰るか?」
「うーん……もうちょっと居たい!」
コウを正面から覗き込みながら前のめりの姿勢で満面の笑みで柚葉がそう答えた。その後にコウの方が照れながらはにかみ答える。
「お、おう……」
そのコウを見てからかおうとする柚葉。
「あら〜?てーれたっかな〜?」
「っばか!照れてねーし!!……あっはははっ」
「ふふっ、あははっ」
二人で他愛のない会話で笑い合い、遠くも近くもない二人の距離が寄り添いそうな位に少しだけまた縮まった……そんな一時だった。
星、樹木、空、雲、草、虫……花、鳥、風、月、人……
明け方の小鳥のさえずりも、溢れる涙のような雨も、夜空の藍色も……
それらが急に呼吸をしだしたかのように鮮明に彩り、愛を奏でているようで、美しさを纏い……
柚葉にとって今まで全くの無意味だったモノまでが意味を持ち始めた。
その頃には胸の中に暖かい何かとそれ以上の不思議な感覚が生まれていた……
時にそれに締め付けられたり、熱い鼓動の高鳴りを上げている時はその音が体の外に漏れ、周りに聞こえてしまっているのではないかと思うこともあった……。
星と月と太陽から産まれた子★
九★湧き戻る記憶……。
月の子と太陽の子が初めて出会ったのは六年前。
その頃に太陽の子には幼馴染みの空から産まれた空の子がいました。
月の子、星の子、太陽の子、空の子の四人でよく遊んでいました。
四人は親友のように、兄妹のように仲が良く何をするにも一緒でした。
ある日太陽の子がみんなの前で月の子との約束をします。
「わたし……ずっとあなたのことが好きだったの……もうあまり離れたくないわ。だからこれからもわたしと一緒に居てくれる?」
「もちろん。約束するよ。ずっと大切にしていた素敵な石があるんだ。これは君に持っていてほしい」
そう言って虹色の石を太陽の子へ渡した月の子。
その頃はまだ月の子への思いを抱いていなっかった星の子は、太陽の子から事前に相談を受けていて、二人を一心に祝福します。
「とっても素敵!心から応援するわ」
この日を引き金に悲しみの銃が火も音も無くいくつかの心を撃ち抜いていたのです。
序章ED詩 向日葵
青空の中で笑う向日葵
真っ直ぐに立って背伸びをするように
想いきりに咲いた大きな希望を
夢中に追っていた君……夏
緑 木々 陽射し 熱 蝉 半袖 汗
君 僕 想い 夢 そして 君……君
偶然だったよね
あまり上手く話せていなかったけれど
距離が近づいた晴れた日の午後
何故だか君の名前はすぐに覚えていた
そんな不思議がとても僕は嬉しかった
忘れないよ一緒に探した日々を
君がくれたココロの高鳴りを
懐かしさに埋もれて探していた向日葵
君を見つけたように思えて少し……笑った
月日を越えてもいくつも咲いていた太陽のように
青空の中で笑う向日葵
真っ直ぐに立って背伸びをするように
想いきりに咲いた大きな希望を
夢中に追っていた君……夏
忘れないよ一緒に探した日々を
君がくれたココロの高鳴りを
ありがとう頷いてくれるような眼差しを
夢中に追っていた君……夏




