十五☆【中編(下)】葬る思い……歴史に残る収穫……新しい日常……じゃおれ言っちゃうからね……。
オレンジのじゃないと……。
歯磨きを終え、なゆりとちぃは先に休むことを皆へ伝え、おやすみを言い二階へ上がった。二階には三つの部屋があり、一つ目の部屋がメンズ。その隣の小さな部屋がマスター。最後の一番広い奥の部屋がレディー部屋と最初に話し合いで決めていた。奥の部屋の扉を開けると、ベッドが二つとテレビがある部屋だった。それぞれのベッドがある訳ではないが二人で寝ても大丈夫そうな大きめのベッドだ。
「ちぃちゃん!一緒のベッドで寝ようよ。その方が話しもしやすいと思うのだけれど……」
「うん!かのんとなら大丈夫だと思う」
殆んど躊躇わずにちぃは返事をし、なゆりが部屋の電気を消し、ベッドに入り、ベッドの間接照明を操作しようとしてる時にちぃが囁く。
「この照明だけでもいいからオレンジのじゃないと眠れないんだけど……いいかな?」
「うん。いいわよ」
「ありがと」
なゆりにはあどけないちぃのその発言や行動のぎこちなさや不器用さが素直でとても自然なモノに感じ、それが今のなゆりにはとても魅力的に映っていた。人の価値観とは面白いモノだ。理性を保ち『常識のある子』や『イイ子』や『目立たない子』でいるには幾らかの『自分』を抑える必要がある。その自分を抑え続けてきたなゆりには、気持ちをそのまま行動に移せているちぃの裏の無い表情や言葉がとても心に届く。
なゆりは家で飼っている犬の全身で表す精一杯の反応に感銘を受け、『好きな人が帰って来た時にこんなに嬉しくてしょうがないんだ……』とか、『一緒に外に出掛けられないことでそんなに悲しさを表現するんだ……』と、そんな意思表示を真剣に手本に考えたのを思い出していた。ちぃの発言、表情、行動がそれに多少重なった。それはなゆりのペットとは違いオーバーな反応や表現では無いが、それはそれで大袈裟では無い分、より真実味のあるぎこちなさや不器用さを飾らずに表していて、とても潔く見える。そんなちぃがなゆりは羨ましかった。
部屋の隅の間接照明と天井から照らす二つのオレンジの明かりと、夜の藍色がシリアスな空間を充分に演出していた……。
心の扉が多少軽くなったのか、ちぃが本題を切り出す。
「不思議なの……かのん達を見ていると凄く友達が欲しくなるわ。学校にもまた行ってみたくなるの」
「うん。それは良かったわ」
なゆりはちぃの頭を摩りながら曇りの無い笑顔で応える……ちぃのずっとしまっていた言葉が次から次へと外へ出ていく……。
「かのんだから言うね。私ね。友達をきっと欲しいんだけど……仲良くなれそうな子が出来ても上手く出来なくて続かないの……」
布団を鼻まで被り表情を隠しながら話を続けるちぃ。視線はなゆりへ向けられている訳ではなく、照明が表す天井に映る光と陰へ向けていた。そのままで話しを続けるちぃ。
「私ね。上手く出来なかったから学校も行かなくなったの……」
その告白と同時にすっぽりと頭まで布団を被ってしまうちぃ。後ろめたさがきっとそうさせているのだろう。なゆりはまだ何も言わないままその布団ごとちぃに手を回し包んだ……右手は変わらずにちぃの頭を摩りながらこのちぃの告白を受け止めようとしていた。
「かのんを見てると好きな人と一緒なら仲良く出来る気がしたわ……その好きな人は初めから好きだったの?後から段々と好きになっていったの?」
その質問を投げかけると同時に布団から顔を出し、ちぃの視線がなゆりを捉えた。
少し照れながらなゆりは恥ずかしさから逃れようとしたその時に、真剣にちぃが相談を持ち掛けていることを再認識し、なゆりは恥じている自分を恥じた。深呼吸をして冷静さを取り戻そうとしながら応える。
「それがね……いつからかは分からないの。でも初めから少し気にはなっていた気がする……かな」
「素敵だわ!なら段々と好きになっていったのね」
急に瞳を輝かせながら応えるちぃ。なゆりは精一杯に真実を話そうとするが上手く言葉が出て来ない。ちぃの瞳が『それからそれから?』と言っているようになゆりを捉え続ける……少しの間が空き、言葉に表すなゆり。
「偶然ね。私の秘密を見られてしまったの……もうどうすれば良いか分からなかったわ」
「なんか運命的ね!それからどうなったの?」
「ちょっと!どさくさに紛れて私の恋愛話を掘り下げないでよ!……ふふ。もう。困るわ」
膨れっ面のなゆりが笑いながら応える。
「へへっ。でも聞きたかったな〜。続きが気になるわ」
「それはまた今度ね。でもね。きっと今まではまだ素敵な人に出会えてなかっただけじゃないかな?」
「そうかな……」
への字口になるちぃ。ちぃのお腹や腰へ回していたなゆりの左手は、なゆりがちぃの瞳を見て話す時は肩に添え適度な距離を取る……右手は変わらずに頭を撫でている。
「きっとそうよ」
なゆりは優しい笑みでちぃと向かい合う。
「私もね……ずっと一人ぼっちだったんだよ」
どうにかしてちぃを励ましてあげたい気持ちがこの告白へと変わった。
「嘘?そんな訳無いわ!」
なゆりはちぃの瞳の奥へ語りかけるように見つめながら応える。
「ふふ……それがね。本当なの。沢山の辛い思いをしたわ。中学校の頃……何をやっても空回りで上手くいかなかったの」
今なら辛うじて笑って話せる。そんな表情をしながら一人ぼっちだったのはちぃだけでは無いことをなゆりは伝えようとしていた。なゆりは何よりも先にちぃに安心を届けたかった。なゆりが以前に感じたような孤独がちぃへ伸し掛かるのであれば拭い去りたかった。
「かのんにも在ったんだ……大丈夫!私が守ってあげるわ」
ぎゅっと強く抱き締めてきたちぃに驚くなゆり……励まそうと思っていたら励まされてしまう。ちぃが勇気を出すきっかけは守る側でも守られる側でも構わない。なゆりはそう思った。
「ありがとう。心強いわ……きっとね。友達のことをお互いが対等に見れていないと上手くいかないことの方が多いみたいなの。どちらかに不満が募ってしまえば一緒にいることが嫌になってしまうわ。それが対等だけではなくて敬意を含む対等の場合程、親友に近くなれるみたいなの。お互いが尊敬し合えているのが一番の素敵な関係になれるわ。そんな関係になれそうな人がいたらしっかり気持ちを伝えること。私はそれでも恥ずかしかったから言葉では伝えられなかったわ。でも近くに居れればその気持ちはいつかは必ず伝わる筈……伝えられる時が来る筈……そう思ったの。それからは私も上手くやれているの」
ちぃは今迄を思い返していた……以前に仲良くなった子がいたが、思いやりの無い言葉で傷付けてしまったのを思い出していた。それからその子とはぎくしゃくしてしまい、上手く話せなくなってしまった。
他にも同じように数人を傷付けて……時には傷付けられて来たことを思い返していた。その途端になゆりへ気持ちを伝えたくなったちぃ。
「私、かのんのこと……好きよ」
「ふふっ。ありがと!私もね、ちぃちゃんを見てたら素直で羨ましいなぁって思ってたんだよ。そんなちぃちゃんが私も大好き。これからもよろしくね」
「私。初めて友だちとこんな風に話をしたわ……それまで相談もしたことも無かった。私、かのんに会えて良かった」
「うーん。可愛いい!!」
とうとうちぃをぎゅっとしたなゆり。「くぅーーーっ」と言いながら首も振りながら夢中になって抱き締めている。
「かのんシャンプーのいい匂いがする。でも、そんなにしたらちょっと苦しいよ。ふふっ、あははっ」
「こんな関係の仲間ができるとね。不思議と勇気が湧いてくるんだよ。何でも頑張れそうな力が湧いてくるの。嫌なことがあっても、まあいいかって割り切れたりもするの」
「もうそんな気持ちを感じてるわ。かのん大好き!私、かのんみたいなお姉ちゃんが欲しかったなぁ……」
「可愛いな〜もう。もう一回やっちゃおうかな〜」
と言って両手を広げゆっくりとちぃをぎゅっとするなゆり。再度「くぅーーーっ」と言いながら首も振りながら夢中になって抱き締めている。
「ふふっ、あははははっ。髪があたっててくすぐったいよ〜」




