九☆【後編(上)】柊との経験値……取材……瞳に映る愛情を……。
薄い意識で聞くえんじぇる内の会話の後……。
「ほらあんたそろそろ起きなさい!遅刻するわよ!」
「ん、うう……ん……柚葉か?」
「何訳のわからないことを言ってるの?」
「だっておれ今……えんじぇるに……」
「それはいい夢の最中に悪かったわね。かぁさんもう今日は出掛けるからちゃんと起きなさいよ」
瞼を開けると見慣れた部屋のベッドの上にコウは横たわっていた。声を掛けていたのはコウの母親だ。ここは……おれの部屋か?ん?おれはあれからどうやって帰ってきたんだ?
いつもコウが目覚ましで起きれない時には母親がコウを起こしに来る。そんな日常に違和感を感じながら眠い目を擦り、部屋を出て階段を降りるとテーブルの上には母親が朝食を用意してくれていた。
それを薄い意識の中で食べつつ、TVから聞こえてきたニュースキャスターの声で意識がはっきりと戻ることになる……
「六月六日水曜日の今日の天気をお届けします。今日は発生した台風二号の影響で……」
「!!!」
……待て!……嫌だ!……嘘だ。やめてくれ……
テーブルに肘を突き両手で頭を抱え込み状況整理をするコウ……
考えろ!……柊に初めて会ったのはいつだ……?なぜ?……何故にこうなった……。
急いで着替え家を出るコウ。電車に駆け込み、改札を出ていつもの道を通る……
抵抗の三撃……『通学路の最初の分岐点を敢えての逆に進む』今は何時なんだ……
一つ目の抵抗の『いつもより数時間早く起き家を出る』はきっと遂げていない……
最初の分岐点を逆に進みなゆりと初めて会った辺り……
「ちくしょう……邦正……柊……誰にも会えないのか……」
今までと変わらない筈の景色が悪魔の使いに変わりコウに恐怖を囁き続ける……
「煩い!煩い煩い煩い煩いっ!!!」
この世の終わりのような表情をしている挙動不審なコウに、通りを歩く他校の生徒が不審人物を見る眼でひそひそと話しをしている……
「やだー。何なの?あの人……」
「みちゃ駄目よ。行こ」
まだ口にしてはダメだ……そんな訳無い……もう一度寝て目覚めればきっと元通りとかそんなやつだろう……ははっ……。
なゆりや楓に会う前の朝に戻っていることをテレビから聞こえてきた日付けで知ることになる。
現実を知るのが怖いが、この現状を明らかにする判断材料はある……柊、楓、柚葉と話せば……
コス部のみんなを探そう。
全力で走り向かい校舎に入り教室を目指した。次第に呼吸が速くなる。急いでいたので無意識に力強く教室の引き戸を開けると大きな音が出てしまい、ホームルーム前の登校の早い生徒達ほぼ全員がコウに注目をしている。
そうか……何を焦っている……ここにはいない……落ち着け……これが落ち着けるわけないだろ。
何も言わず教室の戸を閉めるコウ。えんじぇるに行っても何かは掴めそうだ。無意識のうちに辿り着いたのはコス部部室だった。引き戸を開けようとするが鍵がかかっていて開かない……拳を握り締め叩き引き戸に八つ当たるコウ……
「ふざけるな!一度も鍵がかかっていたことなどなかった!ちくしょう……邦正と話せばきっとある程度の情報は得られる。ただ、根本的に今のこのおれの迷走を止めるにはそうじゃない……」
今までと変わらない筈の校内の風景さえコウに恐怖を植え付ける……
「一体何なんだここは……平行世界なのか……」
頭を抱えながらゆっくりと歩いた……急いでも無駄なことに気付き平静を保ち始めたコウ……不意に屋上に辿り着き、寝転がり空を眺めた……この数日の出来事が脳裏をよぎる……。
必死に走り向かう高揚感を知った日々だった……
一人の女の子に出会い秘密を共有するようになり、遠退いていた信用を手繰り寄せることができていたようだった……
その日のうちにもう一人の小さな女の子に出会った。その子も苦悩を抱えていた……
その日の午後にはまた新しい子に会った。その子は大切なものを無くしたと言っていた……
一緒に探してやれなかったな……
昼食時は誰が言った訳でもなく、自然に屋上で集まるようになっていた……
そんな偶然が今は奇跡のように感じていた……
偶然の出会いが今は遠過ぎる……
必然とは決して思えなかった……
何時間が経ったのだろう……ふと思ったがそんなことは今はどうでも良かった……。
「こんなところで何やってるんだ〜少年〜」
急に元気よく話しかけて来た人影が視界に入った……楓だった。ただいつもと違う接し方なのは一目瞭然だった。
「少しだけ考えことをしててな……」
「へ〜。なんか悲しそうだね」
「ああ。大切なモノを探してるんだ……」
「なくしたの〜?どんなの?大きい〜?」
「そうだな。大きくて。楽しくて。心地よくて……それでいて面倒で……心をくすぐられて……」
これ以上を語るのはダメだと思った。何もかもをぶちまけてしまいそうだった。楓に縋り付いて泣きじゃくりたい思いだった。顔色を読まれないように腕で顔を隠した……。
「一緒に探してあげるよ!楓暇やし〜」
「ありがとな。楓って言うんだな。おれはコウだ。桐宮虹。おれの秘密を知ってるのは今のところおまえだけだ。おまえの探してるモノもあればおれが探してやるからな」
「お?おう。ありがと。なんか不思議だな〜。こ〜に〜って呼んでいいかな?」
切なさが込み上げてくる……
まだこの時の楓は苦悩の中にいるのだろう……
「ああ……いいぞ。まだ出会ったばかりだがおれはもうおまえを信用している。お前さえ望むならおまえの兄ちゃんになってやってもいいんだ」
「え?ホントに?」
「ああ……問題無い」
「楓ーどこ行ってたのよ?もう部活始まる時間よ!……ってあんた誰よ?」
柚葉か。なんか久しぶりに思えるな……
「これこ〜に〜。に〜これしおん」
「はは。最短な紹介だな。桐宮虹だ。よろしく」
「私は柚葉しおん。よろしく。ちょっと急ぐから!楓は連れてくわ!」
屋上はまた静けさに包まれる……
偶然に楓や柊には会えたが、状況は何も変わっていない……
——おれはこの世界でもいい関係を作れるのだろうか……
「時間が……戻っている……そして前の世界とは別の内容で進んでいく……」
信じたくない現実に思い知らされる……
「ここは別の世界……嫌だ……どうすれば戻れる……そもそもここが元の世界だというのか?……」
——おれは何をすればいい……何をすれば元に戻れる……
「こんな世界は嫌だ……そんな訳ない……きっとまた目が覚めれば元通りだ……」
この時のコウには現実を確かめることが怖くなり逃避を選択することしかできなかった……。
更新頻度多くてすみません!章管理をしました。これからも遊びを入れて行くつもりです。
いつもありがとうございます!(^o^)




