最終話☆【後編(上)】あれから……夢のような曖昧な記憶の中……☆パラレルワールド。
木漏れ日の中で……。
晴れ渡る青空の下……
初夏の眩しい陽射しの公園では、日光を浴びた木々の葉の緑色も日に日に濃くなり、中程にある池にはぷかぷかと浮かぶ鴨の群れが気持ち良さそうに水遊びをしている。
木漏れ日の中で木製のベンチに座る二人を緩やかな安らぎが包み込み、その安心感からか両手を頭上へ伸ばし伸びをするコウに気付いた柚葉は、ラモルを両手でしっかりと抱きながら、そんなコウを見て少しだけ楽しそうに口角を上げていた。
「おまえ。パラレ……」
「ちょっと待ったーっ!」
急に表情を変え真顔になる柚葉に驚くコウ。
「おおぉ!びっくりするじゃん!何?……」
「今からあなたが言うことを、わたしも一緒に言ってみせるわ!」
突然得意げにそう言った柚葉をコウがあしらおうとする。
「そんなの無理だろ?この、お子ちゃまが!」
「お子ちゃまじゃないわ!簡単よ。コウはさっきみたいに『おまえ』から言い始めるのよ!じゃあせーので言うわよ!コウもせーのって言うんだからね!」
目を見開き自信ありげに告げる柚葉がとても楽しそうだ。
「おう……なんだか急にスイッチ入って凄い勢いだな。あはは」
上半身を上下に揺らしながら掛け声を上げる柚葉に合わせようと、コウは柚葉に置いて行かれそうな程度の上がりきれていないぎりぎりのテンションを、可能な限りに柚葉に寄せ、タイミングを合わそうと柚葉の唇の動きを見ながら告げる。
「「せーの!」」
「おまえ。「パラレルワールドって信じるか?」でしょ?」
「おー!!何でわかったん?」
コウが驚き尋ねると柚葉は含み笑いながら応える……
「ふふっ。秘密よ……」
「なんだそれ?……で、どうなん?信じるか?」
そしていつもの調子で柚葉が答える……
「当たり前じゃない」
柚葉は今でも忘れることなく残っている……この世界ではない前の世界のコス部での大切な思い出を、これからは絶対に失くさないようにしようと考えていた……外見からも、一つ一つの仕草からも、所々が幼さない柚葉が、ぬいぐるみのラモルと向き合いながら、ラモルの耳をつまみ交互に動かしながら楽しそうにメロディーを口ずさみ始める。
「コウはわったし〜のお嫁さん〜コウはわったし〜のお嫁……」
柚葉のかわいらしいフレーズを聴きながら違和感に気付くコウ。
「ちょい待て!おかしいよね??……せめて王子様とかだろ。男役で頼む!」
柚葉はそのコウの言葉に不満そうに顔をしかめた。
「はぁ?どこが王子様なのよ?」
「いやいやいや、お嫁さんって。性別間違ってるよ?」
喜怒哀楽を少しも包み隠さずにそのままで表現する柚葉に、コウは話す相手の本心を疑う癖のある自分を忘れていることに気付いた……疑う余地の全く無い柚葉のわかりやすい性格がとても魅力的に映っていた。
いつでもそのありのままを表す柚葉がコウにはとても眩しくて、接していく程に心が少しずつ洗われる感覚を覚えていた。
「いーの。要は一緒に居たいってことよ」
その柚葉の言葉を聞いたコウは、今まで感じたことのない柔らかな感覚を整理しようとしていた……。
まだ柚葉に会ってそんなに長くはないが、コウは今日まで柚葉と話しをしている時に、不思議と落ち着く感覚を何度も感じていた。
その感覚は長い付き合いの友達に思い浮かんだ感情を隠さずに、そのままの自分で語る時の感じに似ていた。
相手が何を考えているのかが表情である程度は解ってしまうような感覚と、それ以上に、ダメだと感じた相手の行動や考え方も、なあなあにせずにしっかりとその気持ちと向き合い、お互いの気持ちや考え方を擦り合わせようと話し合える関係。
そして話をしていない無言の時間も気にならない安心感の理由が何なのかを幾度と考えたが、いつも納得のできる答えには辿り着けていなかった。
しかしこれは掛け替えのない感覚なのだろうとコウは確信した……。
「……おい幼女。見た目年齢的にも、世間の目とかも気になるし、色々とややこしいから……あと何年か一緒にいてからしっかりと二人の将来のことを考える……それでどうだ?」
心地良い風が嬉しそうに少しだけ恥じらう柚葉の長くさらさらな髪を揺らし踊らせた……
「し、しょうがないわね……いいわ!ずっとあんたの側から離れてあげないんだから……」
狂いなく季節が移り変わり……あれから何度目かの夏に……。
今日もどこに行くわけでもなく、いつもの公園を歩きながら他愛のない話をしていた。
あれからはいつも当たり前のように会って些細な話をする二人。この公園は日中はきっと眩しい太陽に照らされていたのだろう。暑さを避ける為に二人は太陽が沈みそうな頃に待ち合わせていた。とても綺麗な夕焼けが広い範囲で雲や空をオレンジ色に染めている……
不意に柚葉がコウの左手にしがみ付く。
「……わたし。いつまで待ってられるかな……」
「……おう……」
そんな普通ではない柚葉をコウが気付き、照れからか目を逸らしそのまま歩き続けていた……
「……もう……ずっとコウと一緒にいたいな……」
「おう……お前が好きだ……」
コウの囁きのような突然の告白に、驚く柚葉の大きな瞳がコウを捉え、コウの視線を柚葉へと向けさせた。
「え!?……どうして今そんなこと言うのよ!」
「そんなの……好きだからに決まってっだろ」
その言葉に今度は柚葉の方が視線を逸らさずにはいられなかった……
コウの視線が柚葉を捉えて離さない……
「でもまだわたし、幼いまま……」
「お前はあほちゃんか?……見た目が幼かろうが……好きな気持ちは誤魔化せやしないだろ……」
どうしていいのか分からない柚葉が足を止めた……スカートの裾を掴み、赤くなり言葉をさがしている。コウもそこで足を止め柚葉の応えを待っていた……柚葉にはそのコウの表情はいつもよりも優しく映っていた……。
「うーん……そうかもだけど……」
「きっとそうなんだよ。難しく考えたって複雑になるだけだ……おれはお前のことが好きだよ……」
その瞬間に陽射しが少しだけ強くなったのだろうか……
それとも二人の何かに光が灯ったのだろうか……
♪——
「君が好きだ」と奏でるmelody
夢にまで響き続けるよ
love……
いつでも君を探してる
見えなかった言葉も今なら
胸に摑めるから
——♪
優しく笑うコウの輪郭を輝き縁取る『何か』に見惚れ、身動きができなかった柚葉がふと我に返り俯いた。
「……もう……コウのバカ……」
そして小声で柚葉が呟く……
「……いや、違う……バカはわたしだ……」
「コウ!……」
柚葉のいつもよりも清々しく高く弾んだ声色に、コウは瞳を丸くしながら柚葉に首を傾げて応えた。そんなコウと向かい合う柚葉の笑顔には、もう迷いなど一つも残っていなかった。
「ありがと。へへ。だーい好き!」
「お、おう……」
不自然に鼻を触りながら目を逸らすコウを柚葉は見逃さない。
柚葉は今までの記憶が過ぎり、二人の想い出を……こことは別の世界のコス部のみんなとの想い出も……コウとの楽しかったことが脳裏に浮かび、その全てが愛おしく目を細めていた……。
「あら?てーれたっかな〜」
「ばかっ!照れてねーし!あはは……って、おまえ!!何で泣いてるんだ?……」
声も出さずに微笑みながら涙を流している柚葉が、次第に表情を崩し泣きじゃくり始めた。
次々に零れ落ちる涙を両手を交互に使い拭いながら応える柚葉。
「そんなの……いっぱいいっぱい。沢山……ホントに沢山……色々とあったからだよ……今なら泣いたっていいじゃん!これからはもう……隣にコウがいるんでしょ?……」
「あはは。そうだな。おれが護ってやる。泣け泣け」
「あー。今のはひどい〜〜ぃ」
そう言ってまたコウの手にしがみつく柚葉は全然怒ってはいないようだった。柚葉をなだめながらのコウ。
「わかったわかった」
そしてコウが照れ隠しに「あら?近くな〜い?」と戯ける……
♪——
二人を繋ぐように
耳元に放たれた
囁きは夜空を越えて
季節を変えても止まない……波紋
「君が好きだ」と奏でるmemory
何度でも響き続けるよ
love……
いつでも君を感じてる
言えなかった言葉も二人なら
そっと誓えるから
心を燈せ……love note
——♪
それから柚葉が「行きたいところがあるの」と言い、二人で向かった先には大きな一本の木が在った……。
太陽が沈み辺りは暗闇に包まれた静かな夜に……
真っ暗な中に輝く星を見上げている二人。
遠くも近くもない距離で間隔を保っている。
柚葉が気持ちを伝えた直後が故の距離間。
地面に座る訳ではなく、大木に寄り掛かり膝を曲げ腰は地面から浮かせている柚葉。
何かを思い立ったように急に立ち上がり大木に向かって何かを始めた。
『きっとあいつはこう言う……』
「ん?柚葉。何してるんだ?」
『そして……わたしはこう答える……』
「こんなに大きな木ならずっと無くなることはないのかなぁと思ったの。このわたしの好きな場所にコウが忘れないように彫って残しておこうかなぁって……あとはちょっと自慢したいのかな?今日の約束の記念よ」
「おれが忘れるわけないだろ。しかぁーし!おれもかーく!……こーしてー。こーしてー。あ。いつも呼んでる苗字の方かいちった……」
「ふふっ。でもその方が自然なんじゃない?」
柚葉の彫った字の隣にコウが『柚葉』と彫った。
「明日や明後日のことではなくて、これからずっと先の十年、二十年と時が経ってもこの日を忘れてしまわないように刻んでおくの……今日の日付を入れて……よしっ!」
〘コウ 柚葉 2020.7.30〙
「そうだな……でも二十年経ったらそれこそ忘れないだろ」
「まぁ確かにコウなら忘れないでいてくれそうだわ」
「なんだよ。それいい意味??」
「どうだろうね〜?教えなーい」
「もーう。あ。そろそろ時間遅くない?帰るか?」
「うーん……もうちょっと居たい!」
コウを正面から覗き込みながら前のめりの姿勢で満面の笑みで柚葉がそう答えた。その後にコウの方が照れながらはにかみ答える。
「お、おう……」
そのコウを見てからかおうとする柚葉。
「あら〜?てーれたっかな〜?」
「っばか!照れてねーし!!……あっはははっ」
「ふふっ、あははっ」
二人で他愛のない会話で笑い合い、遠くも近くもない二人の距離が寄り添いそうな位に少しだけまた縮まった……そんな一時だった。
星、樹木、空、雲、草、虫……花、鳥、風、月、人……
明け方の小鳥のさえずりも、溢れる涙のような雨も、夜空の藍色も……
それらが急に呼吸をしだしたかのように鮮明に彩り、愛を奏でているようで、美しさを纏い……
柚葉にとって今まで全くの無意味だったモノまでが再び意味を持ち始めた……。
終章挿入詩 LOVENOTE
好きという気持ちがまだ
明確にはわからなかった
そばにいる事がただ
自然で月日を揃えた
騒いでいた午後のまばゆさに
いつものように明日が
君を連れてくると
思えた頃にはいつの間にか
君の姿だけを…探してた
「君が好きだ」と奏でるmelody
夢にまで響き続けるよ
love……
いつでも君を感じてる
見えなかった言葉も今なら
胸に摑めるから
二人を繋ぐように
耳元に放たれた
囁きは夜空を越えて
季節を変えても止まない……波紋
「君が好きだ」と奏でるmemory
何度でも響き続けるよ
love……
いつでも君を感じてる
言えなかった言葉も二人なら
そっと誓えるから
心を燈せ……love note




