5月15日その①
今日は朝から乃愛が甲斐甲斐しかった。
「友一おはよー!ほら見て、今日の朝ごはんもう作っといたよ!すごない?」
眠たい目をこすりつつ、俺は食卓に並んだソーセージを食べ始めた。
「ありがとうな、いつもいつも」
「いやいやーそれほどでもー?それに洗濯もバッチリしといた!」
「あーサンキュー。雨続きで中干し続いてたけどなんとかなったか?」
「勿論!しっかり畳んで箪笥の中に入れといたで!」
得意げな彼女が、どこか恩着せがましく思えた。そんな態度になっている理由が、自分にはよくわかる。
「あ、そういや今日のお弁当、楽しみにしときや?めっちゃ豪華に作ったったからな!なんとあの…」
「乃愛?」
「うん?」
「今月は食べに行くの、無しだぞ」
そうなのだ。今日は例の如く給料日だったのだ。乃愛はいつもよりちょっと美味しいものが食べられると思い孝行していたのだ。あまりにも短略的な思考だった。
「え?えー?何のことかなあ?私がそんな、美味しいご飯が食べたいからいつもより家事を頑張ったとか、そんなくだらんこと考える人間やと思う?」
首を縦に振る。
「思うんかい!」
「そのお金はボーリングに充てるからな」
そう聞いて乃愛は納得の表情を浮かべていた。
「それは異論ないわ。ボーリングって案外高いもんな」
そして俺にご飯を持って来てくれた。見返りがなくなったのに仕事をやめないのは彼女の長所だ。
「乃愛、朝ごはんは?」
「もう食べた」
「早くね?」
「たまの早起きってやつやで!つうかあんた、最近遅ない?疲れ抜けきってないんとちゃうん?」
そうかなあと思いつつ、首をぐるぐる回すとポキポキ音がした。案外疲れているのかもしれない。
「にしても、テスト1週間前にボーリング大会するとか、やっぱりうちのクラスって色んな意味ではっちゃけてるよな」
「やねー。まあ姫路さんとか、賢い人は参加しとらんやろうしな。国立とか難関私立とか狙ってる人は」
「乃愛は?」
「私?私は行くで!ずーっと勉強とか気が滅入ってまうし」
乃愛はそう言ってあけすけに笑った。
「それもそうだな」
「それよりさ、女子たちの間で噂になっとるで。今回のボーリング」
「ん?何の噂?」
「いや、クラス内の一部男女が、狙いの異性とお近づきになるための機会として狙っとるって。うちのクラスやったらしかねんやろ?」
うん、しかねないな。それくらいの馬鹿なことは、いくらでもしてそうだ。
「まあそうだとしても俺には関係ない話だけどな」
「お、フラグ!」
「むしろ乃愛の方が気をつけとけよ、生徒会長なんだし」
「りょーかい!あ、おかわり欲しい?」
すっと出してくる彼女の手を丁重にお断りして、今日もお手製麻バッグを持って学校へ出発したのだった。




