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5月10日その②

「今同時にブーって鳴ったよな?」

「確かに…全体ライン?にしても寸分狂いないって私ら仲良すぎとるやろ。スマホもその辺忖度してくれとるんやな」

「何馬鹿なこと言ってんの乃愛(のあ)?」


 乃愛の謎テンションを軽くいなしつつ、俺たちは充電中だったスマホを確認しに台所近くのコンセントまで赴いた。充電器も自転車と同じく個別所持だ。これは不可逆的なもので、スマホ購入とともにどちらも充電器が付いてきたからだ。


 スマホの通知画面を見ると、予想通り全体ラインだった。その中にはこう書いてあった。


『クラス交遊会開催のお知らせ

 みんなもうこのクラス馴染めてきたと思うけど、更に仲良くなろうとは思いませんか?

 来週のどこかでボーリング行きましょ!

 場所:バスターボール茨田店(予定)

 お金:要相談

 日時:予定書き込んでって!!みんなが合う日にしよー!

 それじゃ、よろしくお願いします!』


 そしてノートには出欠確認用のシステムへのリンクがあった。送り主は古森(ふるもり)だった。うーん、またピアノ弾けとか言われねえかな。そう思いつつ俺は苦い顔をしていた。


「ボーリングかあ…友一行ったことある?」

「まああるっちゃある。子供の時」


 ここで変な沈黙が生まれた。恐らくこのままでは鷹翅(たかつばさ)の話に突入すると思って、自主防衛したのだろう。


「乃愛は?」

「私も子供の時、かな…」


 再び沈黙。やっぱり、昔の話はよくないな。


「最近行っとらんよね?高校生なってからとか」

「というか引率の人なしで行ったことないわ」

「こんな感じに遊びに行くのもありかも知れんな。たまには」

「そう…かもな」


 俺の反応に驚いたのか、乃愛は目を丸くして俺を見ていた。


「お前…何て顔してんだよ」

「いや、結構あんた乗り気やなって。いつものあんたやったらここでぐっだぐだぐっだぐだ難癖つけ続けるやん。ボーリング?重たいボール転がして何が楽しいの?つうかテスト前なんだから勉強しろよな。こんなん行くわけないやろ!みたいな?」

「最後関西弁混じってたぞ。それにそこまで俺は捻くれてねえ」

「いーや捻くれとるね。私が保証する。友一検定1級の私がね!」

「んなもん交付した覚えはないわ」


 俺はスマホを置いて、そのまま押入れへと向かおうとした。ちゃんと来週のバイト日程を鑑み、火曜日と金曜日だけ休みと入力してからだった。


「ほら、雨漏りの続きやんぞ!俺押入れやっとくから、乃愛は……」

「少しくらい、ジャズストでみんなを呼んだ甲斐、あったんかな?」


 乃愛は消え入りそうな声でそう言った。


「だったら、嬉しいな」


 満面の笑みを浮かべていた。その顔を見ると、不思議と皮肉も否定も言う気にならなかった。有無を言わさぬその顔は、間違いなく支配者階級のそれだった。でも大丈夫、俺も乃愛と同じ気持ちだから。

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