そしてパンドラが顔を出す
「協…力?」
遠坂はピンときているのかきていないのかよくわからない顔をしていた。それを見て私は更に言葉を紡いだ。
「そ、協力。私は遠坂君の恋を全力で応援する。なんせ惚れている相手は私の大親友、乃愛なんだから!遊びに行く予定とか立てやすいしね」
「その代わり、僕は新倉と君をくっつけるように努力すると」
「そういうこと!新倉君って不思議な感じで、結構壁作ってたりするけど、それでも遠坂君は比較的仲良しでしょ?」
「まあ、そうだな。一緒にご飯を食べるくらいにはな」
「多分私達が協力するの、とってもいい効果が出ると思う」
「シナジー効果ってやつだな。だが一つ疑問なんだが…あの2人は、なんであんなに仲が良いんだ?」
それに関しては私も大きく同意したかった。
「わかんない、遠坂君は生徒会でなんか聞いてた?」
「聞いてない…と思う。ここ1年間そういった噂は全くもって聞こえてこなかった。そっちは?」
「前のクラスでも全然。ファンだとか告ったりした男の子はいたけど、全部断ってたし。あんなどこにも接点が無さそうな人と仲良しなんて聞いたことなかった。でも……」
私は少しだけ溜めてから遠坂君に報告した。
「乃愛の、今年になって知り合ったって発言は、絶対に嘘だ。あの子と新倉君は、付き合ってはないけれども昔からの知り合いである可能性が高いと思う」
「幼馴染ってやつか?」
「そこまでかはわかんないけど…そうかもしれない」
雨音がやけに強くなっていった。今日は練習なしかもしれない。
「近藤さんとしてはどうなの?」
「へ?」
「それ、もしかしたら会長と君で、新倉を奪い合うことになるかもしれないよ」
遠坂が核心をグサって刺してきた。そんなこと、私が1番わかっている。
でもムカつくんだ。小出しにしてちゃんと教えてくれない乃愛にも、乃愛と新倉君が仲良く話してるのを見て身を引いちゃいそうになる自分にも。
多分あの子達には何かがある。名前をつけて簡単に形容できない関係がある。じゃないとあんな朧げに昔話なんてしないし、嘘だってつかないだろう。
だからどうだって言うんだ。私は引かない。少なくとも乃愛が全てを吐き切るまでは、絶対に引かない。
「心配ないよ。そんなことで無くなるような友情じゃないから」
それらを簡潔にまとめるとこんな表現に落ち着いた。そうだ。私はお節介のちかちゃんだぞ。こんな所でなあなあに終わらせてたまるか。
「それじゃあ、よろしくね、遠坂君」
手を伸ばす。
「よろしく、近藤さん」
手を握る。
「「一緒に頑張ろう」」
お互いそう言い合って雨音を聞いていた。
2人の過去を知り、乃愛の真意を知り、そして、新倉君の隣を歩く。私は恐れと躊躇いを覆い隠すように、唇を噛み締めていたのだった。




