そして少女は決心する
最初から実は、嫌いじゃないという印象だった。別にイケメンだからではなく、何となく良い人だなって。言葉にならない安心感と、少しの寂しさを感じて、仲良くしようと思ったのがファーストコンタクトだ。
最初に意識したのは髪を褒められたことだ。別に私は不良じゃない。確かに成績はそんなに良くないが、問題を起こしたわけではない。ただ、赤色の髪が好きなのだ。茶色寄りの明るい髪色が好きで、でも家族含めて誰からもいいように思われてこなかった。
「鮮やかな色だから、地毛かと思った」
なんて言ってくれる人、誰も居なかったんだ。それくらい似合ってるって、暗に言われてる気になったんだ。
そこからだ。気づいたら私は彼に影響されていった。ジャズを聴いて、電子ピアノの購入を検討し、何ならバイトも始めようかなと思ったくらいだ。好きな人の好きなものが嫌いだなんて、捻くれてるにもほどがあるでしょ?
でも彼には、大きな謎がいくつもあった。何でバイトばかりして何の部活にも入っていないのだろう。何でジャズストリートでしか演奏しないのだろう。何で…乃愛ちゃんとあんなに仲良しなんだろう。
もっと知りたいと思った。新倉友一について、もっと深い所まで理解したいと思った。どんな人生を歩んできたんだろう。兄弟とか親御さんはどんな人なのだろう。初恋とか、したことあるのかな?
「で?僕を呼び出してどうしたの?」
雨の日の放課後、遠坂君を呼び出した。雨の日は野球部の始動が遅れるから、隙間時間に話をするのに最適だ。
「ちょっと話があってね」
「だからってこんな、人っ気のない場所に呼び出すなんて…」
「ただの空き教室の前でしょ?まあ人は通らないけど」
遠坂は何かを勘違いしているかのように髪の毛をセットし始めた。希望は早めに潰さなければならないと、私は釘を刺した。
「遠坂はさ、乃愛のこと好きだよね」
髪の毛を弄る手が止まった。図星のようだ。見る見るうちに赤くなる耳を見ながら、私は心の中でガッツポーズしていた。
「す……まあ、下世話な表現をしたらそうかもな」
「下世話も何もないじゃん。好きなんだったら」
「と、というかいきなり呼び出して何を言いだしてるんだい?ぼ、僕は君の話を聞きに…」
「私はね、新倉君のことが好きなんだ」
流石の遠坂もここでは空気を読んだらしく、すっと押し黙った。その様子を見た私は少しだけ彼に歩み寄って、小さな小さな、絶対に遠坂君以外には聴かれてはならないように呟いた。
「遠坂君、協力するからさ、協力してくれない?」




