5月8日その③
「何ぐったりしとるん?あんた」
今日は久しぶりにバイトが休みだったから、乃愛より先に帰宅していた。いつもと役割が逆で、俺が机に頬を乗せてぐるぐるとしていた。
「つうかあんた、今日料理当番やんね?」
「昨日の残りでいいじゃん、もう」
「やる気な!!確かに昨日のスープと豚のスタミナ焼き両方大量に残っとるけどさあ…」
「ご飯は炊いた、流石に」
「そりゃ、それ怠っとったらおこやわ、おこ」
そう、もう俺は米を研ぎ炊飯器に入れることのみが仕事と言わんが如く、スイッチを押した瞬間にぐったりと寝始めてしまった。それを彼女に咎められた格好だ。
「個人的にはもう一品くらい欲しかったなあ」
「贅沢言うな」
「いや完全にあんたが作りとうないだけやろ?」
「そんなことはない。そんなことはないからご飯よそってきてくれ古村乃愛」
「あかん……いつもやったら率先してやってくれるのに……完全に亭主関白になっとる…」
そんなことを言いつつしっかりとついでくれるのが乃愛のいいところだ。
「何にそんなに疲れとるんや。今日はバイトもなかった…」
「のーあ??原因はお前だって十分に理解しているだろう??」
「え?えー、なんのことかなあ??」
「今日の朝、あれから俺がどれだけ大変な目にあったと思っているんだ??あれから古森からは何回も何回もピアノを弾いてくれって懇願され……」
「いっただっきまーす!!」
「おいこら、ごまかそうったってそうはいかないぞ!」
ばくばくとご飯を口に含んでいく乃愛。
「いやあこの生姜焼き、おいしいねえ」
「それ昨日も言ってただろ」
「いやいやこれ2日目やろ??2日目の生姜焼きやろ??」
「なんだよそれ?2日目のカレーじゃねえんだから……じゃなくて!!」
俺はぎろっと乃愛を睨みつけていた。いやさっきからずっと睨んでいたのだが、より眼光を鋭くしていった。
「で、でもよかったやんか。クラスに馴染めそうな感じやったやんか」
「馴染めるというかあれはからかわれてんだよ。3日もすれば消えちまうし、残っているやつには中途半端に絡まれるし……大体お前、前言ってたじゃねえか」
「な、なにが?」
「別に断ってもいいって。みんなの前でピアノ弾かんでいいって」
「弾かなくてもいいけれども知ってもらわなくてもいいとはいっていない」
「な!!詭弁だぞ!!」
ふふーんという声を上げつつ、スープをすすっていた。
「知ってもらうことはできた。後はあんたの選択、やで」
そんな得意げな乃愛の顔が、今日だけは憎たらしさ100%で眉を顰めてしまった。




