5月8日その②
「すっげ!!!めっちゃうまい!!」
「これあれっしょ?ルパンのやつでしょ?指の動きおかしくね?」
「いや……まあ……うまい人はこれくらいできる…」
「私ピアノ習ってたけどこんなにうまくできないなあ」
「え?采花ピアノやってたの?」
「嘘はダメっすよーこもちゃん!」
「嘘じゃないしー!つうか沢木?私は古森じゃなくて古森な!それよりも!!新倉君!君はどこのピアノ教室に通ってたの?地元の?」
「え?いや……」
「こんなの習ってないとできないよ普通」
「習ってもできてないしな、お前」
「篠塚黙れ」
そこに居たのは…篠塚沢木古森尾道高見渡辺吉本今野有田……で全員かな?とりあえずクラス内のチャラいやつらが集まっていた。
「で?どうなの?」
「え……いや、通ったことない…」
「嘘でしょ?」
「独学っすか?」
俺がこくんと頷くと、みんな喝采をあげていた。いやいやいや、そんなオーバーにしなくても…別に大したことないし、大して興味もないだろう。
「いやあ、こんなうまいなら行ったら良かったー」
「ほんとっすよ!野球部の練習試合とかほっぽり出していけば良かったっす!」
「おー?マネとして聞き捨てならない言葉が聞こえてきたなあ??」
いやいや野球部に行ってくれ!これ以上人が来たらパンクするし…そしてこんな間の悪いタイミングで、衛藤と武田が教室に入って来た。
「お、何集まってんの?」
「ピアニストの演奏見てる!」
そして篠塚は俺のことピアニストと言うの辞めーな。煽られてる気分になるから。
「あー新倉の?それマジで良かった。行った甲斐あったわー!」
「マジで?行ったの?」
「そりゃお前、会長の誘いだぜ?断るわけないだろ?」
「私の誘いだったよね?つうか私ら、中学ん時からジャズスト見に行ってるし」
武田はこちらを見ると、少し遠慮しがちに視線を逸らした。なんだ?言いたいことがあるなら言ってくれ。
というか乃愛は?辺りを見回すと、彼女はこちらをチラチラ見ながら近藤と竹川とお話ししていた。いや助けてくれよ!さっきから会話の流れに何1つついていけてねえんだよ!!
「というかお前、ライブ慣れすぎな。それの2個前に間を繋いでたけど、話うまいし流暢過ぎてびびったわ」
「想像できなーい」
「ほんと、それをクラスでやれや!って感じ」
巻き起こる爆笑。ついていけない自分。
「これはもう文化祭の演目決まりだな」
「え?何々?」
「そりゃ、新倉友一ワンマンライブだろ?」
「おい、それクラスの出し物じゃねえだろ完全に」
俺は文化祭実行委員の篠塚に対し冷静に突っ込んだ。
「いやいやサポートするから」
「楽したいだけだろ」
「いやほんとゆうっちの言うとおりっすよ!そんな意識だから篠ちゃんはレギュラー取れないんすよ!」
「おま……泰斗!言っていいことと悪いことがあるだろ?」
盛り上がる一団。徐々に集団がバラバラになっていった。10数人の集団が3〜4人にばらける、ありがちなやつだ。まだ俺の周りにいたのは、古森、衛藤、武田。
「いやあ、文化祭で是非聞きたい!というか今からでも聞きたい!!ちょっと合唱部に借りようよ!ピアノ!良い?いつならいける?」
そうやって急かす古森に対して、2人はじとっとした目をしていた。年に一回、この日だけ。そう言っていたアイドルの俺を思い出していたのかもしれない。だとしたら、申し訳なくも少し嬉しかった。しかしできればイケイケの古森にグイグイ来られている俺に対して何か助け舟を出して欲しかった。さっきから異常にこちらをチラチラ見ている乃愛と近藤にも、同じことを言いたかった。




