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5月8日その①

 ゴールデンウイークが終わり、久しぶりの学校である。乃愛(のあ)のような部活組は休日であろうと学校に行くなんてことは日常茶飯だが、俺のような人間には長らく足を踏み入れていない場所になっていた。この間にバイトには4回入っていたから、最早バイトの方が回数が多くなっていた。いやそもそもバイトと学校同数だったか。祝日はない学校と違い、仕事には祝日などない。というかむしろみんなが休む日に仕事しなければならないのが飲食業だ。そんな、大人の悲しい一面を垣間見つつ、俺は自転車を止めた。この駐輪場に足を踏み入れるのも久しぶりである。


「ゆ……新倉(にいくら)君!」


 う?軽い破裂音と共に、近藤(ちかふじ)が話しかけて来た。


「おはよー!」

「おはよー」

「久しぶりだね、学校」


 そう言いつつ近藤は野球部だから、よく来ていたであろう。少し焼けた腕がそれを物語っていた。


「そうだなー。ゴールデンウイーク終わったと思ったらすぐ中間2週間前?だし、もうちょっと休み気分に浸らせてほしいよなー」

「テスト……」


 その時の近藤の表情を、俺は目に焼き付けた。まるでそれは、ラスボスが無敵すぎて絶望する女勇者のような顔だった。くっころ展開すら生ぬるい絶望顔に、俺は悟ってしまった。近藤、そんなに成績良くないのか…


「あーうん、頑張らないと……あでも、野球部的には春季大会ってのがあってね…」


 階段を登り、教室に着くまでこんな取り留めない話をしていた。意地でもテストの話は出さないという鉄の意志を感じた。乃愛に教えてもらったら良いのに。まあ野球部は忙しいから勉強する時間がないという言い訳はある側面で的を射ている。その証拠に単位を取りきれずに進級した、所謂仮進級は5人中4人が野球部だ。うち1人が沢木なんだが、本人はいたってけろっとしていた。9月の再試験に落ちたら留年確定なのに、呑気なものだ。


 そして教室の引き戸をがらがらと開けた瞬間だった。クラス中の視線が自分に飛び込んで来た。それが気持ち悪くて、俺は反射的に近藤の方を向いてしまった。


「ん?ど、どうしたの?新倉君」

「い、いやあちょっとトイレに…」

「ちょっと話聞かせてくれよー!ピアニスト!」


 篠塚の声が聞こえて来た。10人くらいの男女が固まって、文明の利器スマートフォンの周りを囲んでいた。


「すごいっす!これすごいっす!」

「上げてくれた人もナイスだよね!全然知らない人?」

「ネットではちょっと有名らしいよ。ジャンル問わず路上ライブに行って動画上げてるって」

「ほら、早く来るっすよー!」


 いやだ……何が嫌かわからないけれど、何が嫌だ…そう思ってドアを閉めようとしたら、止められてしまった。止めたのは近藤…じゃない!この長い黒髪!そして強い力!


「ほら、行こうよ♪()()()()()()()


 のあああああああああ!!!!!!


 俺は心の中で絶叫しつつ、乃愛と共にその集団へ入って行ったのだった。

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