5月4日その③
家に着くまで塚原真琴の叱言シリーズをたっぷり堪能し、疲れが2割増しの状態で帰宅を果たした。ドアを開けた瞬間に、パアアアンとクラッカーが鳴り響いた。
「お疲れ様ー!」
無論だが、鳴らした本人は乃愛だった。
「ライブお疲れ様&バイトお疲れ様!!ほら、友一の大好きな物作って待っとったよ!ジューシーさを一切捨てたハンバーグ!イカのカルパッチョ!ほうれん草のおひたし!そして某スーパーの激安チーズケーキ!!ほら、早く早く入っ…」
俺の手を引っ張りながら、不意に乃愛はバランスを崩した。そのままその場でへたり込んでしまった。
「お、おい、大丈夫か?」
「友一ぃ。お腹すいた」
「もしかして、飯食べるの待ってくれたのか?」
乃愛はこくんと頷いた。
「先に食べててくれてよかったのに…もう夜の10時だぞ?乃愛も昼間帽子売ってたし、疲れただろうに」
「だって一緒に祝いやん!いつもみたいに私だけ先に食べとるんはあれやな、なんかちゃうくなっとるなって」
乃愛はへたり込んだままずりずりと膝を擦って食卓まで向かっていた。俺は自然な流れで炊飯器に行く。それを見て乃愛はぴょん!っと立ち上がった。
「あ、友一…」
「いいっていいって、これくらいするから」
「いやそうじゃないんやって!それ…」
炊飯器を開けると、そこにあったのは…麦飯だった。
「むうううう!友一驚かそうと思っとったのに!!」
「しかも麦成分多めとか…乃愛、ガチで俺の好みわかってるな」
「せやろせやろ??今回は結構奮発したんやで!ありがたくいただき」
「にしてもこれの原資なんだよ。流石に豪勢すぎるだろ…まさか!」
茶碗2つ分持って食卓へ行くと、乃愛がさっと座ってどや顔でピースとパーを差し出して来た。
「何1人じゃんけんしてんだ?」
「ちゃうわ!私どんだけ寂しい人間しとんねん!数字や数字」
「そうか25個も売れたのか。想定以上だな。半分も売れないと思ってたから…」
「ちゃうちゃう!にまんごせん!25000円売り上げたんや!」
へ?驚く俺を尻目に、乃愛は満面の笑みで言った。
「どや?なんか言うことあるやろ?」
「馬鹿にしてすみませんでした」
「よろしい!では飯にしよっか?」
「にしてもどうやって売ったんだ?」
頂きます!手を合わせて箸を持った。
「ん?『JK手作りカバン手渡し会』って看板に書いたらめっちゃ人来よったわ」
「反則だろそれ!!」
「反則ちゃうわ!持てる強みを最大限生かしとったんやんか!それに今の境遇をそれとなく話したら、お金持っとるおじさま方がそっとお金置いてってくれたわ」
「まあ、安いしなそれ。大人からしたら」
良いくらいにぺったんこなハンバーグだった。塩気も薄くて最高だ。
「なんなら増産しようと思っとってんけどな、間に合わんかったわ」
「そりゃな。1つ作るのにも結構時間かかるしな」
「でもそれさっき作り終わってん!ほら!」
ようやく一口目のハンバーグを飲み込んだ俺に、乃愛は食卓の下に置いていた麻ひもバッグを俺の目の前に出してきた。
「あげる!」
「え?」
「頑張ったご褒美!受け取って、ね?」
乃愛は少しだけ首を傾げ、照れ顔でそれを差し出していた。俺はそれを、少し目線を逸らしながら受け取ったのだった。




