4月5日その④
かつかつと登ってきた階段の主は、どうやら乃愛の友人だったようだ。こちらを見た瞬間に、まるで信頼する誰かに会ったかのような安堵感でこちらに向けて歩いてきた。
「あー乃愛じゃん!おひさ〜」
なんて声とともに。
「ちかちゃーん!」
乃愛は即座に俺の裾を手放すと、階段近くにいた彼女の元へ走っていった。走るほど遠い距離でもないのに全速力で、抱き合うほど長い間会えなかった訳でもないのに抱擁をかましていた。
「ちょっと!!乃愛危ないよー!」
ちかちゃんと呼ばれた彼女の名前は何だろう。少し赤色の入った短い髪の色と、姉御感のある三白眼が特徴の彼女は、乃愛よりも背が高くてスラっとしていた。鼠色のパーカーに英字の書かれた白いTシャツ、それに短めの赤スカート。合わないようで合っていた。
「ちかちゃん!またクラス一緒だね!よろしく!」
「おいおい、これでもクールビューティがウリの生徒会長さんでしょ?」
「いいじゃん!」
「まあ、今年一年もよろしくなのは同意だよ」
「うん!」
成る程彼女は、学校でもこんな感じなのか。俺視点に立たせてもらえれば、クールビューティな乃愛なんて夢幻の幻想種なのだが。とにかく、家庭以外でも素の自分が出せるのなら、同居人としてこれ以上安心できることはない。
「隣にいる人は……?」
ちかちゃんたる人物がこちらを見て来た。あまり関わりたくない。これから同じクラスになるらしいが、どうせ同じクラスの女子とか数人も話さないのだから別にいいだろう。うん、きっとそうだ。
しかしそんな引きこもり本性を、乃愛は見逃してはくれなかった。
「新倉友一って言うんだ。同じ2-8だよ!」
まるで俺のセリフを話したかのように彼女は言って背中をバン!と叩いた。
「…よろしく」
死んだ目をして挨拶した。ちかちゃんは赤色の髪が反射したかのような、少し紅い頬をしていた。
「近藤憐って言います!よろしくね」
ああちかちゃんって名前から取ってるんだと思っていたら、苗字からだったのか。ちかとかちかことかそんな名前だと思っていたから、少し拍子が抜けた。
会釈を終えた後に、ちかちゃん…いや近藤は尋ねてきた。
「2人はどこで知り合ったの?」
2人とは俺と乃愛のことだろう。この言葉の裏には、私の聞いたことのない交友関係だなという探りの気持ちもあったのかもしれない。女の子ってそういう生き物だ。中途半端に独占的で、中途半端に嫉妬する。
「えーっとね。話すと長くなるんだけどね。私とゆ……」
バシ!!口を塞いだ。というか唇を叩くような形になった。
「さっきたまたまそこで見かけてさ。自転車壊れて困ってそうだったから、直してあげたんだ。それじゃあ失礼するね」
右手が乃愛の吐息で溢れた。胸の鼓動が増した。目の前の近藤のキョトンとした顔が仕方ないながらも怖かった。
俺はすぐにその場から離れた。そして自転車の鍵を開け、さっさと自転車置き場を出たのであった。
っざけんなよあいつ!!俺達は極力外で関わらないってことだったじゃねえかよ!!!




