5月4日その①
目を覚ました瞬間、もう乃愛は出かけてしまったようだった。部屋にいないのに一瞬だけパニクったが、そういや今日は余っている帽子売りに行くとかなんとか言ってたな。順調なのだろうか。
そういや昨日はほとんど会話がないまま終わってしまったな。JCカフェの演奏後も他のクラスメイトのターン中に塚原真琴が乱入して来たし、ゲリラライブの後はみんなで打ち上げしたし、途中からAさんBさんも参戦しての派手なやつで、暫く時間を割いてしまった結果、家に着いた頃には乃愛は出店でもらったものを食べて早めに就寝していた。こんなに長く話していないのは久しぶりな気がする。なんだかんだと言って夜は彼女とのんびりあーでもないこーでもないと話して来たから、少しの違和感と寂しさを感じた。
時刻はまだ10時である。いや、もう10時だろうか。今日からはいつもの日々が始まる。手始めに今日は12時から3時、6時から9時のスケジュールでバイトが入っていた。ジャズストはまだ終わっていない。あんなに人が来るお祭り、その近くにある飲食店となれば人混みは必須、というわけでゴールデンウイークは結構ガリガリ働かされるのだ。3日は休んでしまったからな。働かねば。
押入れにお給金としてもらった今回のカンパをしまった。月のバイト代の半分も稼いでしまった。我ながら割りのいいバイトだなと思いつつも、これは大事な時にとっておこうと思った。
冷蔵庫を開けた。何か適当に腹に入れなければ、バイトで力出ないで店長にクソ怒られてしまう。店長は人が入れば入るほどテンパってしまい指示が雑になり最後には店員に怒り始める、そんな人だ。クソ野郎だって?それは日頃の優しい態度でなんとか中和している格好だった。今日は恐らく怒る方の店長だから、しっかり食べないと……
ラップされていたのは、手作り料理。乃愛が手作りしたのだろう。俺は身に覚えがない。それ自体は珍しくないが、手作りのオムライスの皿の淵に、小さく折り曲げられた手紙が添付されていた。誰からだろうと思って皿ごと取り出すと、『友一へ、乃愛より』と書いてあった。
別にラインで書けばいいのに……それで書きたくないほど重大なことなのだろうか……俺は唾を飲み込みつつ、ラップをとって電子レンジに入れて手紙だけ手に持っていた。そしてあたた目を押した後で、その手紙を恐る恐る開いた。
手紙にはこう書いてあった。
『昨日のライブお疲れ様ー!私の自信作、オムライス置いとくから、それ食べてバイト頑張れ!
PS.晩御飯何食べたい?私に作れるものならなんでもオッケーだから、返信よろしく!』
いやこんなのラインでいいじゃねーか!!ドキドキして損したわ!!!
そんなことを思い一度は手紙を投げてしまいそうになったが、だからと言ってもらって嬉しくないわけではない。俺はまたその手紙を小さくして、裏っかわに『ハンバーグ』と書いて机の上に置いたのだった。




