阪急高架下、17時30分、近藤憐
正直なこと言って、舐めていた。ジャズストリートなんて、いったい誰が来るんだって、どうせそのお祭りにまだいるんなら、自然と合流できる。それくらいの人の数なんだって思ってた。阪急槻山駅に着いた瞬間から、私は激しく後悔していた。人が多い。連絡橋にも、下のコンコースにも会場があって、人の入りが物凄かった。どうしよう…焦る私はとりあえず、一階に降りてキョロキョロしながら歩いていた。
街中そこらかしこで音楽が鳴り響いていた。音のする方へ歩いた。カフェから流れる音楽も素晴らしかったけれど、野外ステージも捨てがたい。聴いている人も中には酔っ払い始め、手に缶ビールを持つ人が多く見かけられた。将来、やってみたいな。絶対に気持ちいいだろうし。
赤色の髪がなびいた。この髪色が好きだった。不良だとかアニメの影響だとか過去に悲しいトラウマがあるだとか、そんな理由は一切ない。ただ、この暗めの赤色が自分に合っていると思ったから、私は去年の夏から赤色の髪を継続している。それに対してぐちぐち言う人は、学校を一歩外に出るといっぱいいた。子供に泣かれたこともあるし、大人に絡まれたこともある。この日もどこかで絡まれるのではないかと危惧していたが、なんとか無事に1つ目の高架下に到着した。
そこのステージは他と異質で、ジャンルもジャズじゃないし、ダンスしている人もいた。こんな人達も出てるんだと思ってステージの後ろを歩いていると、そこに居たのは…
新倉君だった。
あれ?新倉君はもう出番終わったはず、ここカフェじゃないし、時間も違う。なんでだろう??もしかして、最初からこっちも出る予定だったけど、聞かされてなかっただけなのかな?私は正面にまわり込もうとして、道を曲がった。
大入りの人だかりだった。そして他の場所より若い人達が多くいた。ドラム、ベース、ギター、ギター、キーボード。たしかにバンド構成は若者向けだ。更にダンサーが2人入った7人バンド。その1人に新倉君がいたのだ。
楽しそうな顔でキーボードを叩いていた。キラッとした笑顔は、今の今まで見たことのない一面でキュッと胸がしまった。キラキラしている彼の姿を目に焼き付けよう。そして、他の誰にも知らない、自分だけの…
すぐ斜め前に乃愛がいた。流石にそう易々と私だけが知る新倉君まとめが増えることなんてない。乃愛も聴きに来たんだ。まあ呼びかけた張本人だもんね。そう思っていた私を戸惑わせるように、彼女は天を見上げていた。決して、ステージなど見ていなかった。
そして急に、急にだ。180度回転して、その場を離れようとし始めた。どうしたんだろう。何か用事でも思い出したのかな?どちらにしても声をかけたかったから、私は苦渋の決断でその場を一瞬離れ、繁華街へ向かおうとする乃愛の手を握った。
「お疲れ様!きたよー!」
彼女の手が異常に震えていたのを、私は忘れなかった。困惑と絶望の混じった顔も、じっと見つめていた。
「何かあったの?」
私はできるだけ優しい声で、彼女に話しかけた。




