夜の部その④
結局あれから7人が集まって、綿密な打ち合わせが…始まることはなかった。そもそもeithe自体が即興バンドだ。ドラムとベース、ツインギターにダンサー。5人でその場で作曲し、その場で演奏するバンドとして有名だと、頼さんが言っていた。ダンサーとはなんぞやと言われてしまいそうだが、即興でダンスをするのだろう。あまり馬鹿にするとまた塚原真琴が睨んでくるのでやめておくことにする。その肝心の塚原真琴はこの日のために染めて来た金色の髪をちらつかせ、派手なメイクに身をまとっていた。その姿は、もはや高校生には見えなかった。
ツインギターは双子。しかもまだ中学生だという。塚原とは打って変わって、ここらの名門なにわ星蘭の制服を着て、お揃いのヘアゴムで黒髪ロングをポニーテールとツインテールにしていた。異常なほど似ている2人だから、髪型を変えてくれていてありがたいと思えた。因みにポニテが姉、ツインテが妹である。
チームリーダーであり発起人のドラムは既に日本酒を一升開けてきたらしい。あり得ないがこの人が俺と頼さんを招待した張本人だ。どうして顔が1つも赤くなっていないのか不思議で仕方なかった。因みにこれでも、教育大の4年生で、教育実習も控えている教員の卵らしい。耳のピアスとかインナーカラーの髪とか、あんまりな要素が多いが、先生の卵らしい。
ベースは先程から一言も話していないので省略。年齢は24で、性別が男で、髪が丸刈りなことしか知らない。この人と会ったの、つい5分前だし。頼さんもよく知らないって言ってたし。
ここまでで容易に理解できると思うが、相当なイロモノ集団である。まあ俺も頼さんも経歴で行くとイロモノそのものだが、それ以上の逸材がゴロゴロと揃っていた。つうかなにわ星蘭通っててこんな人らと絡んでていいのだろうか。人格形成に悪影響を及ぼしかねないというか、及ぼすこと間違い無いだろう。
ステージに登ったら、すぐに演奏だ。音量の調整はステマネさんが終わらせているから、楽器の調整は弾きながら行うらしい。もはや楽器への冒涜だろそれ。呆れつつも突っ込まないでいた。思ったほど嫌悪感が想起しないのは、隣に頼さんが居るからだろうか。
「ごめんね、無理に誘ってしまって」
大体の事情を知る頼さんの言葉だから、開演3分前のこのタイミングでこう言われても納得できた。
「むしろ楽しみですよ、頼さんがダンサーとして舞台に立つの」
「見たことなかったかな?」
「始めて見ますね」
追加のメンバー、キーボード新倉友一、ダンサー頼治嘉。昔はプロダンサーを目指していた話は聞いたことがあったが、実際に見るのは初めてだ。
「貴方の頼みなら、どんなことでも聞きますよ。一回だけなら」
「じゃあもう終わりか」
からっと笑った頼さんを急かすように、ドラムは言った。
「それじゃあ、eithe改めneither!行くぞ!」
阪急高架下、ステージの裏手側。時刻は17時30を迎えようとしていた。




