JCカフェ、16時
次の演奏が始まる直前に、私達はJCカフェを出た。友一が塚原さんに捕まってしまってからすぐの話だった。そう言えば、マスターもどこかへ行ってしまったな。7人居て、おそらく私だけがその事実に気づいて居た。
「な、なんかびっくりしたね!最後」
のどかちゃんはそう言ってあははと笑っていた。
「誰なんだろあの娘?」
「服的には…阿部仲高校か?魅音」
「うん、そうだと思う」
「つかなんで休日なのに制服なの?」
「遊ぶ時も制服着ろ!って校則なんじゃない?知らねえけど」
「ふーん、有名なの?」
「正直そんな賢いところではない」
皆が口々にテンポよく会話をしていた。主に梅野君やのどかちゃん、現田さんの質問に同じ槻山出身の衛藤君と魅音ちゃんが答えていた。そんなに賢いところではないという表現は結構配慮されている気がする。もっと悪口を言う人だっているからだ。
「なんかちんまいけど気が強そうなやつだったよな」
「髪の毛染めてるし」
「それはうちの学校も大抵……あれ?今日は少ない?」
現田さんがそう言いつつ首を振ったが、染めていたのは少数派だった。軽音部コンビとのどかちゃん以外は黒髪だったのだ。
「髪の毛黒色とか中学生以下だろ」
「煽ってるなあ衛藤」
「確かあの高校、染髪禁止だった気がするけど…」
魅音ちゃんの冷静な意見は会話の渦に流された。
「古村さんは、知り合い?」
「へ?」
「あの娘と」
遠坂君の突然の質問に、私は固まってしまった。
「や、めっちゃ睨んでた気がしたから、古村さんのこと」
「あーわかる!もしかして同中とか?この辺だもんね、乃愛ちゃん」
それに現田さんも乗っかった。
「どの辺出身?南の方?」
「2中ではないよな。見たことないし」
槻山出身の魅音ちゃんと衛藤君も食いついてきた。私は嘘は罪を思い出して胸を痛ませながら、からっからの笑い声とともに答えた。
「知らないよあの娘のことなんて。私はあれよ、今は条南中の辺りに住んでるけど、中学は全然違うところに通ってたのよ」
「引っ越してきた、みたいな?」
「そうそう、君と一緒だって遠坂くん!」
そう言って切りぬけよう。引っ越した、は間違っていないのだから。にしても、私は恵まれているな。普通だったらこんな嘘、ソッコーでバレると言うのに。
「なるほどー道理で乃愛ちゃんの中学時代知ってる子いなかったんだあ」
「今度紹介するよ!槻山の良いところ!私これでも槻山住んで17年の、生粋の槻山っ娘だからさ!」
こうして自然に、突然友一を連れ去っていった少女の話は会話の穴に吸い込まれていった。みんな良い人だな。私だったら文句の1つ言いたくなるのに。いや多分、みんな心の中で『なんだこいつ!?』と思いつつ、それを言葉に出さないでくれているのだろう。折角のお祭りだし、雰囲気を悪くしたくない思いもあるのだろう。
向こうの事情を知る自分の胸中としては、仕方ないかなという思いと、いや流石に酷くないかという思いの半々だった。相変わらず敵視してるんだなということだけは、痛いほどわかった。
「わかった!」
明るい声なのに小声で、のどかちゃんは話しかけてきた。
「ふふん、この名探偵ちーのど、わかってしまいましたよ乃愛ちゃん!」
集団から少し離れて、私達は歩いていた。私は少しドキドキしながら、
「な、何を?」
と尋ねていた。
「ずばり、乃愛ちゃんあの娘に昔いじめられてたでしょ!ほら、なんか可愛いけど嫉妬深そうだし、乱暴そうだし、あの娘」
うっという声が漏れそうになり、すぐに誤魔化しの咳払いをした。
「大丈夫だよ!次来たら私が追い払ってあげるから、ね!」
そう言って笑いかけるのどかちゃんに向けて、私は曖昧な笑顔で返すのが精一杯だったのだ。




