4月5日その②
「にしても俺、今回めっちゃ当たりのクラス引いたわマジで」
前で話していた水泳部3人の話を聞いていたら、偶然こんな話題が出てきた。
「あれ?傑今回何組?」
「8組」
「えー!8組ってさ、和ちゃんとか松戸とか居るとこじゃん。それに……」
「そう、生徒会長!」
嘘だろ〜!!!とか、羨ましい〜!!と言った声が辺りにこだましていた。少し煩雑さを感じつつも、俺は黙って続きを聞いていた。
「乃愛ちゃんかあ。いいなあ、いいなあ」
「あの人いるだけで幸せになれるわ。水泳部のエースにして成績優秀容姿端麗スタイル抜群」
「おまけに性格も良いときた」
「何飲み食いしたらあーなるんだろうなあ。見習いたいけど見習えないよ!」
神社の湧き水を飲んで具材のないカレーを食べてたらなれるんじゃないかな?俺は心の中でそう毒づいた。確かに彼女の外側を見ているとそういう感想になるのも致し方ないが、1番近くで見ている自分からしたらそう特別に思えなかった。
「そういやさ、俺聞いたことないんだけど……あの人ってどこ住み?」
少しだけドキッとした。
「槻山でしょ」
傑と呼ばれていたクラスメイトは即答していた。
「いやそれはわかってるって。問題は槻山のどこかよ」
「槻山広いもんねー北は県境南は大河」
「出身中は条南って言ってたわ。どの辺?」
「わかんねえ俺吹越だし」
「私も起置川だし、傑は?」
「豊倉」
誰1人としている槻山出身の人間はいなかった。俺はほっと胸をなでおろした。この学校は茨田市にあるのだが、茨田市の東に接しているのが槻山市、西に接しているのが吹越市、南に接しているのが起置川市、そして北に接しているのが豊倉市。簡単に言うとこんな感じだ。だから全員槻山とは接していないので、彼女の矛盾に気づくことはないだろう。まあ最も、それに気づいたからと言って、彼女の今の居住地、つまり2人のアパート部屋のことだが、そこにたどり着くには尾行するほかあるまい。
「ちなみに2人は何クラス?」
「2人とも7組」
「不本意だけどね」
女子側がふうとため息をついていた。それに少し男側が悲しそうな顔をしていた。
「それじゃ、暇なら遊びに行こっかな」
「いいね、隣だし!」
「おう、どんどんこいよ」
そうやって笑っているうちに、教科書を買う列ははけていった。相変わらず人気なんだな、乃愛。別にそれを誇らしいとも邪魔くさいとも思わないが、同居人が褒められていて嬉しく思わないほど人でなしじゃない。
ふと、ブーっと音が鳴り響いた。安っぽいバイブ音とともに、ワイマックの格安スマホを取り出す。ぎこちない操作をしつつ、入ったメッセージを目で追った。差出人は乃愛からだった。
『SOS!SOS!自転車壊れてもうた!!』




