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当日朝、男女4人

 私はその日、圧倒されていた。何にって?予想をはるかに超える、槻山市のジャズフェスにだ。


「なあ傑」

「なんだちーのど」

「思いの外凄くてマジビビってるんですけど」

「同感だな、俺もだ」


 起置川出身の傑と、吹越出身の私では、槻山まで来ることがそもそも少ない。しかし初めて訪れた槻山は、最高に活気があった。


 まだ朝の10時を過ぎた頃だというのに、駅前には何箇所も野外ステージが設けられていた。近くの小学校や中学校の校庭もステージとなり、その周りにはすでに屋台の幟が立っていた。それも博多だの東北だのメキシコだの、様々な地域の食材が並んでいた。


 何も屋台を出しているのはそんな正式参戦組だけではない。多くの飲み屋が連なる繁華街では、酒とつまみが野外で売られていた。焼き鳥屋が外でリアルタイムに鳥を焼き、中華料理屋が腕によりをかけた餃子をその場で焼き上げる。ビールも生やら缶やら溢れていて、ダンディーなおじさまがたが既にお酒を胃に入れていた。


「な、なんか…雰囲気すごくない?」

「正直ビビってる。すげえお祭りだなこれ」


 その1つ1つが、小さな祭り単位で盛り上がり、それが60以上の箇所で朝から晩まで続くのだという。音楽を聴きながら酒を飲むのがそんなに楽しいのだろうか。まだ子供の私には全く理解できなかった。


「会長の言ってた店って、ここ?」

「JCカフェ…」

「ちーのど、今いかがわしいこと考えただろ?」

「はあ??あんたじゃあるまいし」


 そう言って傑と2人でそのカフェに入ると、既にいっぱいいっぱいだった。年齢層は…やはり高めか。しかし同じくらいの年頃の女の子も…


「あれ?のどかちゃん!それに…梅野(ばいの)君?」

「おいこら魅音!デートの邪魔しちゃダメだろ!」


 そこに居たのは同じクラスの武田魅音と衛藤駿平だった。なんだ、お前らの方がデートじゃねえか。私はさっきまでの素を覆い隠すように声のトーンを半音上げた。


「うわあああ、こんなところで会えるなんて、偶然だね!もしかして…会長さんに呼ばれた?」


 そしてテクテクと歩いて行き、魅音の手をぎゅっと握った。


「そうそう、会長に強く勧められちゃってさ。まあ、私も暇だから別に良かったんだけど。それにジャズとかあまり聞いたことないから逆に新鮮かも」

「そっちもそんな感じ?」


 相変わらず素っ気なさげに衛藤は返した。


「まあ、ね」

「本当は松戸(しょうど)君とか7組の2人とか誘いたかったけど、断られちゃったんだ。ざーんねん」


 私としては会長の頼みなのに断るとはどういう了見だと詰め寄りたくなった。特に彼女とのユニバを挙げた松戸、今度パシリの刑だ。


 私はキョロキョロして会長を探した。私達を呼んだ主催者なのだから何処かには居るのだろう。そう思っていたのだが、ここで頭を振る私に対して衛藤が強烈な一言を浴びせてきた。


「あ、会長さんライブ前まで用事あるからここ来ないって」


 へ?寝耳に水過ぎて、私はアホなツラを晒してしまった。

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