5月1日その⑥
「なあ、乃愛。ちょっと相談があるんだ……」
「へ?何何何何????」
部屋に帰って来て内職の続きをしていた乃愛にむけて、俺は背を向けながら相談事を持ちかけた。それに対して乃愛は、手元が狂うんじゃないかってくらい動揺していた。おかげさまでこう尋ねざるを得なかった。
「そんなに驚くことか?」
「いやいや何言っとん。あんたが私に相談事持ちかけるって、ほぼないんわかっとうやろ?」
「しかも今回はお金の話ではない」
「!?!?!?!?」
俺はコンソメの素で作っているジャガイモスープの味付けを考えつつ、隣で野菜炒め用の細切れ肉の塩梅を見ていた。平日の朝昼は乃愛が作ることが多いが、バイトのない夜は俺が作ることもある。結構その辺は流動的だし、どちらかが偏っている!と新婚家庭のように喧嘩になることはない。
「あんたが…あんたがお金以外のことで私に相談するなんて…大丈夫?病院行く?」
「お前の俺に対する認識歪み過ぎだろ。ほら、ジャズストの話だよ」
「あー今日JCカフェ行く言うてたもんね。どうやった?AさんBさん元気しとった?」
「あの2人には会ってねえよ。あの人らとは当日ぶっつけ。マスターに会ってピアノ見てきただけだ」
「の割に帰り遅かった…あ!マスターになんか相談されとってんな!」
「そーゆーこと」
俺はスープの味を決め、更に野菜炒めに野菜をぶち込んだ。ちょっと雑な作り方で、ピーマンが水分求めて飛び跳ねていたが、致し方ないと割り切ることにした。
「で?あの人から何の相談?」
「なんかさ、俺らの後に演奏する人らが急にキャンセルしたらしくて」
「ほうほう」
「その時間分じゃなくてもいいから少しだけ演奏時間少し長くしてくれないかって」
「ええやん!いつもよりいっぱい演奏できるなんて!」
「で、AさんBさんがその演目を俺に全部投げたと」
口は回るが手は止まらない。それは背中越しの乃愛も同じだ。
「相変わらずやなあ、あの人ら」
「まあ出演に向けためんどくさい書類とかその辺全部片してくれてるし、演奏曲もほぼ向こうが決めてるから文句も何もねえけどな。ただ何やろっかなって」
俺はサラダを準備するために冷蔵庫に向かった。最近は野菜が高い。これならパックのカット野菜買った方が安いのではないかと思い買った特価のキャベツ千切り。それに棚からツナ缶を持ち出した。ツナサラダだ!できればコーンも欲しかったが贅沢は敵だ。
「なるほどー」
「乃愛的にはどう?去年も聞いたと思うけど、こんなのあったらいいなーとかそう言うのなんかない?」
乃愛は珍しく黙りこくって考えていた。無心に手は動いていたものの、次の言葉を発するまで時間がかかっていた。それだけ真剣に考えてくれたのだろう。
大体の料理が見繕えた辺りで、ポツリと乃愛は呟いた。
「お客さんに体験させる、みたいなのがあってもいいかも」




