5月1日その③
宣伝の話はどうなったのだろう。とりあえず沢木あたりの頭とノリが軽そうな男には話が行っていないようだった。もしも彼らが知ったら彼ら独特のよくわからないテンポで適当ないじりを繰り出してくるだろう。そんなひどいことを思いつつ、終礼の時間になった。
ばん!と前に席が張り出される。俺の場所は…前から2番目か。くじの結果とはいえ、窓際の前から2番目にチェンジはあまり変わっていない気がする。
さて隣は…遠坂?ちょっと待て…
「おー新倉君!よろしく!」
「よろしくね、新倉君」
後ろには黒髪ロングと赤髪ショートが並んで席に座っていた。隣遠坂、後ろ近藤、向かって右斜め後ろが乃愛だ。なんでこんな、窓際に知り合いが固まってんだ?作為を感じたが、偶然なのだろう。それより、終礼は終わっただろう?早く返してくれ。今日は少し、いつもと違ってやることがあるのだ。
「あ、ジャズストリート出るんだっけ?新倉君」
相変わらず沢木や今野や渡辺ががやがや騒いでいる時に、近藤はそう耳打ちしてきた。
「誰から…古村さん?」
「そう!乃愛ちゃんから!あの子、ジャス聴くイメージないけど、結構好きなんだ。私も時々聞くんだよ。勉強のお供に」
「意外だね」
「そう?」
「若者は聞かないからね。年齢層高めだからさジャズストリート」
俺はそう言いつつ、目の前の彼女がどんなジャズを聴くのか思索していた。しかし1つも出てこない。辛うじてGun's&Rosesが出てきたが、あれはサックスが出てくるだけでジャズとはジャンルが違いそうだ。
「……行きたいなあ」
「用事あるの?」
「うん、その日は5時まで野球部の練習。残念だけど新倉君の演奏には間に合わない」
「そっか」
「その日しかピアノ、弾かないのにね」
え?なんでそのことまで知ってんだ?まさか乃愛、そこまでしゃべ……
「あれ?前乃愛が言ってたよね?その日しかピアノ聴けない!とかなんとか」
あっ、買い出しの時の話か。
「そうよね?乃愛」
「ん?なんの話?」
乃愛は後ろに座っていた現田との話を切り上げてこちらを向いた。
「新倉君の話。ピアノ、明後日しか弾かないんだよね?」
「え?あーそうらしいよ!ちなみになんで?」
お前理由知ってるだろ!そんなツッコミは野暮だ。あえて深掘りせずターンを投げたのは、疑念を薄めるに効果的だと思った。
「別に?それで満足するから」
そしてこの回答である。あながち間違っていないからこそ、乃愛も少し苦い顔をしていた。
「そっか、今度どこかで聴きたいな!」
そう笑いかける近藤は、少し残念めいたものを心に持っていた気がしてならなかった。自分は何1つとして残念ではないが、他の人にそう思われるのはなんとなく嫌だと思った。なんだこの小学生の作文みたいな心情描写。全てから目をそらすように俺は終わらない終礼を詰っていた。




