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5月1日その②

 ん?と思い少しだけ眉を上げたが、そういやこいつは神戸の方から中学の頃起置川に引っ越して来たんだって言ってたな。まあ席替えの鉄則すら知らない男だから、無知でもおかしくないし、そもそもジャズストリート自体若者知名度はそこまで高くない。


「そうだよー!ジャズ興味あるの?」

「いや全然、でも最近チラシを見たから」

「あー槻山市が配ってるやつ?」

「いや、吹奏楽部の」


 ここで質問していた乃愛だけでなく、俺も無言で納得した。そういや今年は藤ヶ丘高校吹奏楽部も出るんだっけか。俺が出る3日だけど、時間も場所も違っていた。前にパーカッションの新河(しんかい)がみんなの前で宣伝していた気もする。


「あーなるほど!」

「2人とも槻山の人だけど、大きな祭りなのか?」

「そりゃもう!!数千人のアーティストが市街地半径1km圏内に集合して、朝から夜中まで色んな音楽が流れ続ける、そんなお祭りよ!街中がジャズバーみたいになって、高架下とか広場とか色んなところが会場になるの!」

「す、すごいなそれ」

「うん!すごい。その日はものすごい人だかりになるんだよ。海外含めて色んなところからお客さんが来るし。まあちょっと年齢層が高めなのはご愛嬌なんだけど笑」


 大体乃愛が説明してくれたな。そう思って俺は押し黙ってお手製の厚焼き玉子を食べていた。濃い味は苦手だというと、とても薄味の玉子焼きに仕上げてくれていた。ありがたい。


「なんで新倉(にいくら)は黙ってるんだ?」

「特に知見がないからな。槻山でもみんな知ってるとは思うなよ…」


 乃愛がなんとも言えない顔でこちらを見ていた。多分俺が出演することを言っていいのか考えているのだろう。それについてはな、俺自身も思考していた。だからこそ黙っていたのだ。


 少し変な間が空いて、それから肩をバンと叩かれた。


「なーに言っての?あんた、ジャズストリート出るじゃん!」


 あ、結局そういう方向でいくのか。俺は了解したように調子を合わせ、半音上げて答えた。


「け、謙遜だよ謙遜」

「何その世界一無駄な謙遜!大体あんた、もっと宣伝しなよ!折角自分が出る舞台なのに、誰も知らないんじゃない?」


 遠坂は目を丸くして硬直していた。


「どうした?遠坂?」

「いや、少し意外でな。なるほど、新倉はジャズやってるから、部活にも入らないしいつもせかせかと帰っていくんだな」


 うーん、結構違うんだけどな。大体はバイトという名の生活費稼ぎのためだから。それでも俺は、曖昧な笑顔でそれを返した。ジャスしてる世界線の方が、話として信用してくれそうに思えたからだ。


「そうだ!私らでもうちょい宣伝しようよ!」


 そしてその設定に便乗するように、乃愛は立ち上がった。


「何日の何時から?」

「いつからだっけ?」


 2人がこっちも向いて尋ねてきた。俺はなるべく素っ気なく、それでも少し嬉しい感情を隠しきれずに答えた。


「3日、14時。JCカフェ」


 そして一呼吸入れて、次の言葉は押し殺したのだった。

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