4月28日その③
編み物してる時は地味で静かになる。だから2人、向かい合ってお互いを見ず会話をしていることが多くなった。
「なあ、友一」
「何?」
「将来のことについて、なんか考えとる?」
「考えてない」
「正直すぎん?ちょっとは考えとるとこ見せてや」
「考えてないもんは考えてない」
「そっか……」
「乃愛さ、いくら編み物で集中力切らさんために会話が必要だとしても、広がらない会話はするもんじゃねえぞ…」
「私はね、迷っとるんよ」
「…何を?」
「高校卒業したら、どうしようって」
「どの学部に行くかとか?」
「大学進学するかどうか」
「…乃愛は目指しなよ、成績良いんだし」
「そんなでも…いや、ここで謙遜しよるんはあかんな」
「そうそう、頭良い人の頭良くないアピールほどうざいものないから」
「それもう耳タコになっとる。口癖よね?友一の」
「そんなに言ってたかなあ」
「というか、あんたの成績も大学進学出来んレベルやないやろ。関畿大くらいなら普通に勉強してても入るんちゃう?」
「私立じゃん」
「公立がいいん?」
「まあそもそもいけるのかどうかわからんけどな。戸籍の有無で大学行けるかとか調べたこともないし」
「…………」
「ぶっちゃけ、先を考えてって言っても、自分にはできるかどうかわからんないことが多過ぎるんだよな。結婚も転居も下手したら就職も厳しいかもしれないし」
「就籍できたらええんやけどね」
「それも今後次第だな。でもそろそろ準備を始めたい。卒業までに家庭裁判所に行かなきゃいけないし」
「そもそも法律詳しい人に聞く所からちゃうん?弁護士とか」
「そう、だな。まあでも今は、実態がバレるわけにはいかないから無理だけど」
「それは…せやな」
「……なんか図らずして将来の話した気がする」
「いやいやいや、こんなん近すぎる将来やん!もっと先の話をしよう」
「……そういう乃愛は?」
「………」
「ないんじゃねえか!」
「だからそれを考えとるんやて!」
「…まあでもまだ4月だし、のんびり考えても悪くないんじゃね?」
「そう思ってるとすぐその時が来るから、今のうちに考えとくんや」
「…なるほど」
「……なあ、友一。高校卒業したら、こんな生活も終わってまうんやんな」
「………」
「………」
「多分だけど、卒業しても俺はここに居るぞ」
「ほんま!?!?」
「というかこんな身元不明人置いてくれて家賃3万で許してくれるなんて、他には無いからな。多分」
「それはそっか。あの大家さん、お金さえ払ったら何も言わないからね」
「だから遊びに来ても、いいぞ」
「遊びに、か」
「ん?何かご不満か?」
「いえ別になにも。まあ友一も寂しくて泣いてしまうかもしれんし、そうなったら…」
「だから後悔ないように生きるんだぞ。乃愛は」
「………友一は?」
「俺?」
少し間が空いて答えた。
「んじゃ俺も、後悔ないように生きる」
「うん、だから」
「だから?」
「この生活、卒業まで楽しまんとな」
卒業まで続くといいんだけどな。そんな軽口は表に出さず、その日の0時まで2人はこんな取り留めない会話をしながら鞄を作っていた。




