4月28日その②
「いやでも!!大丈夫!大丈夫やから!私1人でできるでな!」
そう強情に突っぱねる乃愛。
「ほう?じゃあ今どれくらいできたか見てみたいものだな」
「えっ……えーっと…」
「前は残り5個で終わりって言ってたよな?麻の鞄、どんくらいできたのかなあ?」
そう言って俺は徐に立ち上がると、乃愛の後ろ手にある押入れを開けようとした。ここに作ったものを保管しているのだ。
無論乃愛からは必死の制止が入った。
「まって、まって、ほんまに大丈夫やって。ほんまに順調に来とるから、安心して今日はシャワー行って来て!な?」
そして俺はその釈明を耳に入れず、ばん!!と押入れを開けた。そこにあったのは、まだ作りかけの麻鞄。麻ひもバッグと言った方が一般的か。
ふうとため息を1つつき、俺は頭をかいた。
「まあここのところの乃愛忙しかったからな。仕方ないんじゃね?因みにここからのご予定は?」
「……明日と明後日水泳部、1日生徒会始動日。2日は学校以外ない…」
「2日って、本番直前じゃねえか。こりゃ今すぐやっとかないと…」
「いや、大丈夫!私結構麻ひも使うの慣れてきとるし、ここからは1人でもできる!友一の力借りる訳にはいかんからな!」
「もう既にたくさん手を借りてっから気にするな。お前春休みどれだけ俺の睡眠時間削ったと思ってるんだ?」
しゅんとなる乃愛。少し言い過ぎてしまったのかもしれない。その後悔を誤魔化すように、俺は少し優しい口調で尋ねてみた。
「そもそもさ、なんでフリマ出ようと思ったの?」
そして作りかけの麻ひもバックに手を伸ばす。あっと声の漏れた乃愛を、俺は視線で制止させた。
「少しくらい家計助けたいって言ってたけど、こんなの売っても大した支えにならねえし、なんなら赤字覚悟だし」
「ボソッとひどいこと言うなー!」
「ははは。でも何で?」
別に俺だって、編み物が得意なわけではない。鎖編みも細編みも、今回の作業で初めて知った。正直、もっと慣れている人に助けて欲しいくらいだった。
乃愛は少し溜めてから、ぼそっと呟いた。
「最終的には、カーディガン作りたくて」
そこで俺はハッとなった。
「そうやで、あんた2月にカーディガンの袖口破いてもうたやろ?」
「あの古着屋で売ってたユニクロ製のやつな」
「それだけじゃなくて、お手製のもの増やしていきたいなって。ニット帽とかマフラーとかあんた全く持っとらんやん」
確かにそうだ。そうした類の防寒グッズは全くなかった。
「財布もバリバリやし、帽子はどこのチームかわからん野球帽やし、鞄もクタクタのダサい黒リュックやし」
「良いだろ別に」
「それも全部、私が作ってあげる!これはその練習よ、練習」
その言葉自体は、とても嬉しいものだった。だからあえて、乃愛の方を見ないでかぎ針を持った。
「じゃあもっとハードル下げて、マフラーとかから始めたら良かったんじゃね?」
「そんな、5月の頭に毛糸のマフラーとか欲しい人おるわけないやん!やっぱ熱い季節は麻やで麻!」
「まあ一理あるけど…」
「せやろ?」
「まあ、今日できるところまでやろうぜ。明日の水泳部何時から?」
そういって振り返った時には、もう乃愛はかぎ針と麻ひもを持って、次のやつを作り始めていた。
「朝10時から、前砂町の温水プール」
「りょーかい!んじゃ、0時を目処にやろっか」
俺は乃愛の方を向いて、互いに向き合いながら作業を始めたのだった。




