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4月28日その①

「疲れたあ!!!疲れたよう友一!!!」


 ドアを開けてただいまおかえりのやり取りをすんだと思ったら、彼女はいきなりそんなことを言って甘えて来た。頬を机につけ、手足をだらんとしてぐずっていた。一昨日生徒会役員選挙立会演説会にて、自分の功績と課題、そして今後の改善法を、理路整然と3分しっかり話し切った我が高校の会長と同一人物とは到底思えなかった。あの時の立ち振る舞いはまさしく、乃愛(のあ)だった。むしろこちらの方が偽物に見えて仕方なかった。


「つかれたぁ…」


 俺は冷蔵庫を開けて、水曜日に作ったカレーをいつ壊れるかわからない電子レンジに入れて雑にスタートボタンを押した。


「疲れた疲れた!!疲れた疲れた!!」


 そして流し近くに置いてあったコップを手に取る。


「つーかーれーた!!つーかーれ……」

「あーもうわかった!!わかったから愚図るのはやめろ」


 神社の湧き水をコップに入れて乃愛の方へ持っていった。


「これでも飲んで今日は寝ろ、な?明日は念願の休日だろ?」


 そうして渡した水を、乃愛は一気飲みしてガン!と机に叩きつけた。


「もういっぱい!!」

「だめだ。これは貴重な上宮天満宮の井戸水なんだぞ?汲みに行くのがどれだけ大変か汲んでる本人の乃愛が1番…」

「そんな正論聞きたくない!!ロジハラ、ロジハラしとうよ!!」

「なんだその日本語…馬鹿なこと言わずに今日は寝ろ」


 まるで子供をあやすかのようにあしらって、レンジからカレーを取り出した。それにスーパーで叩き売られていたナンをつけて食べるのだ。


「シャワーは?」

「もう行っとる」


 道理で髪からシャンプーの匂いが強く香るはずだ。その柑橘系の匂いに嗅覚を刺激されながら、晩御飯を食べ始めた。いつもの夜9時半である。


「歯磨きは?」

「もうしとる」

「今日やらなあかんことは?」

「……大体終わっとる」

「明日の予定は?」

「……特にない」

「もう寝るしかやることねーな」


 しかしながら布団をひいてはいなかった。これはどういうことだろう。詳しいことはわからなかったが、この質問だけは最低でも刺さると思って投げかけてみた。


「で?今度は何が問題なんだ?」


 うっ!!核心に近いことを聞かれて動揺した顔をした乃愛に、俺はさらに畳み掛けた。


「もうそろそろお前の行動パターンにも慣れてきたよ。そうやって幼児退行する時は、目を逸らしたくなるような問題をかかえた時、そうじゃないか?」


 乃愛はみるみる小さくなって、顔を赤くしていた。さっきは力強く置いたコップを、今度は静かに机に置いていた。


「で?今度は何が起こったんだ?」


 乃愛はだいぶ遠慮しながら答えた。


「……フリマ用のやつが、終わりそうにない」


 それは、4月初頭に『後は自分でやるよー!大丈夫大丈夫!』と言っていた、ジャズストリートの片隅で行われるフリマ用商品の進捗遅れだった。俺は呆れつつも、そんなことかと少し安心していた。

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