もんじゃを頬に受ける
「ちかちゃんってさ、新倉のことどう思ってんの?」
打ち上げ会場で土手の崩壊したもんじゃ焼きをたらふく食べていた和ちゃんが、イカスミもんじゃで歯を真っ黒にしながらそう尋ねて来たもんだから、私は驚いて言葉を失ってしまった。
「あれ?なんか変なこと聞いた?」
「い、いや別に。いきなりで驚いただけ…」
「普通の質問、だと思うけど?向こうは花いちもんめを参考にするなら最低でも気にかけてはいるみたいだし」
「おいちーのど…」
前の席に座る松戸君と梅野君が呆れた顔で竹川を見ていた。因みにちーのどは水泳部男子内での和ちゃんの言い方だ。
「お前俺らが座ってるからって素が出すぎな」
「男として見てねーだろ!!」
「あんたらも私のこと女として見てないでしょ?てか見てたらきもいし。今日はあんま関わったことない男の子いたから猫被んのに疲れたのよ。ちょっとくらい気ぃ使ってよね」
私も最近知ったのだが、これが和ちゃんの本性だ。まあでも、これくらいの変わり身なら許容範囲だ。女の子は多かれ少なかれ、心許していない男の前では猫を被る生き物なのだから。
「それに会長いたしな」
「な!!!それは……関係……ないし……」
顔が真っ赤になる和ちゃん。それを梅野は見逃さず呟いた。
「……レズのど」
イカスミもんじゃの焦げカスが彼の頬にぶつけられた。和ちゃんは無言でギロリと睨んでいた。
「まあでも、ちょっと意外だったかなあ」
「どうしたの?松戸君?」
「いや、新倉ってさ、見た目からして暗そうで、深夜にアニメとか見てそうなツラしてんじゃん」
「言い方ひどくねwぼいけど」
信じられないかもだがこれは和ちゃんの発言である。私は少しだけムッとしてしまった。いやまあ、確かに新倉君は特段かっこいい方じゃないけど、なんかこう、むかっとした。
「あーゆーのって、もっと清楚そうな女の子とか狙いそうじゃね?ほら、会長とか」
「あーわかるー!!ってか仲よさそうだし普通にあると思ってた」
ここで梅野が火傷から復帰して来た。
「ん?のどレズ妬いてる?」
そして今度はおでこの火傷で戦線離脱していた。
「い、いやそれはないないないない!!不釣り合い、不釣り合いだって!!会長にはもっとこう、大会社の御曹司とかと付き合って欲しい」
「こんな公立校にそんな奴いるかよ」
「じゃあもう付き合わなくて良い!!」
そして最後の一口を頬張った和ちゃん。遠くで席替えの号令がかかった。1枚食べたら移動して、みんなと話そうという心意気である。貸切だからなせる技だ。
「で、答えまだ聞いてないんだけど…?」
立ち上がる準備をしつつ、和ちゃんはこちらをまじまじと見て来た。他の男子2人もこちらを見ていた。どうしよう。どう答えよう。そう迷って下を向いていると、徐々に3人の目が丸くなっていった。
「あれ?これあるのでは?」
「ワンチャンあるのでは?」
「うっそこれは予想してなかった」
そして誤魔化すこともできないまま、散り散りになってしまった。あれ?何で何も言えなかったんだろう。思っていた以上に動揺している自分に気づき、頬に手をやるとあまりの熱さに火傷しそうになった。いつの間にか、私も和ちゃんに焦げカスをぶつけられたのだ。そんな冗談を思い浮かべても、頬の熱さは引いてくれなかったのだった。




