4月25日その⑧
「おっしゃーうちあげいこうぜ!!」
そう大声で提案したのは渡辺だった。こいつ、ケイドロの後に吉本さんに向かって全クラスの前で告白をして了承貰ったからといって浮かれすぎだろう。駅に着いた瞬間にこれだ。まだ先生も隣にいるというのに。
「まあ、羽目は外しすぎるなよ」
「えー先生来ないんですかー?」
「先生は忙しいんだよ!お前らだけで言ってこい」
ざんねーんという声が聞こえてきたが、先生に来て欲しい理由はお金を払ってくれるからというのがその大部分を占めていたりする。
「みんな来るよな??」
と言っておー!っと返すのはノリのいい奴らだけだ。うちのクラスは結構そういう奴が多いのか、多くの人間が参加するみたいだ。大凡8割、と言ったところか。
「乃愛、行こうよ!」
「あ、うん」
乃愛も呼ばれたようだ。俺は自然にフェードアウトしようとして、ずっと集団から消えようとした。その瞬間、近藤に右腕を掴まれてしまった。
「新倉君も、こない?」
その顔が、あまりにもキラキラとしていたから、俺は振り払うのを躊躇ってしまった。それでも俺は打ち上げに向かうわけにはいかない。それは、俺にとって望み過ぎた代物だ。
「ごめん!今日バイト入ってるから」
「あーそうなんだあ」
「それじゃあ、また明日ね」
そう言いつつ奥で竹川に手を引っ張られている乃愛を見て目配せした。どうせこいつはまた私だけ楽しんでーとか言い始めるのだろうから、先に牽制しておいた。
別に良いのだ。今日はとても楽しかった。これ以上楽しいことをしてしまうのは、自分の身に合わない。それに、ゴールデンウイークで入れない分今週はいっぱいバイトしないとダメだしな。
「バイバーイ」
乃愛は察してくれたのか、文句もあるだろうがそう言って遠くから手を振ってくれた。それを少し恥ずかしそうに振り返す。どうせ家でまた会うだろと思いつつも、俺は学校の駐輪場に向かっていった。
少しふわふわした状態で自転車を漕いでいた。今日の楽しい時間を噛みしめるようにペダルを踏んでいた。これはバイト先でこっぴどく怒られたってペイできないほどの多幸感だ。
信号をいくつか超えて、バイト先に着いた。バイト先の駐輪場には、バイクに乗って来ていた柱本がいた。
「おはようっす…」
びくっっとなった柱本。そして俺の顔を見るや否や近づいて来た。なんだ?俺が何かしたのか?
「新倉くん…」
怒られるのだろうか。深刻そうな顔をしているし。そう思って黙っていたら、いきなり肩を掴んでこう言ってきた。
「何か辛いことがあったら、お姉ちゃんに相談してね」
「何言ってんすか柱本先輩」
そこからバイト中、やたらと柱本先輩が優しかったのが非常に気持ち悪かった。誰だ?この人に何か変なこと吹き込んだ人は?店長か?




