4月4日
時刻は10時を回っていた。そう言うとまるで夜10時を回ったようだが、実は朝10時の話である。俺たちは結局昨日の話に結論をつけられないまま、同じ布団に入ったのであった。
歯磨きをしたのが夜10時だったから、丸々12時間寝たことになる。確かに最近はバイトと乃愛が作っているフリマ用の内職を手伝っていたから、睡眠時間を圧迫されていたものの、こんなにも長く安眠できたのは久しぶりだった。
うちのバイト先は変なところで律儀だ。君はまだ高校生だから〜などと言って、深夜働けないし週6日以上入れてもらえない。そろそろ春休みの客足も落ち着いてきたので、今日は休みなのだ。
俺は隣で寝息を立てている乃愛の顔を凝視した。こんな貧乏な生活を強いられていると言うのに、頬は柔らかそうだし、付くところにはしっかりと肉感があった。小さくくるまって、口元に置いた自分の右人差し指を優しく食むようにして寝ていた。ずっと見ていたいくらい綺麗な寝顔だ。
彼女も生徒会の仕事と水泳部の練習の合間を縫って内職していたから、少し疲れたのだろう。仕方ない。今日のご飯は俺が作ろう。そう思った矢先、掛け布団から出ようとした俺を、乃愛が止めてきたのだ。
もしかしたら気のせいかもしれない。彼女の左手中指が、まるで脈拍を測るように俺の首元を摩ったのだが、無意識なものかもしれない。それでも俺は、その場で凍り付いて動けなくなってしまった。
布団を2つ買うのはロスだからと言って、割と早めから俺らは同じ布団で寝てきた。お互いを触ってはいけないなんて言う御触れもない。でも一度たりとも、そういう行為を行なったことはない。
思えば変な関係なのだろう。日本全国探しても、同じ高校に通う血の繋がりも恋慕の繋がりもない男女が毎日同じ部屋で寝泊まりしているなんて、イレギュラーにも程があろう。しかもこれからは同じクラスだ。不自然さの極まりであるし、昔風の言い方では不純異性交遊というやつなのだろう。
安らかな彼女の顔を見て思う。昨日の話を思い出す。やはりこれから、ご飯は1人で食べよう。幸い去年少し仲良くした奴は別のクラスに行った。クラスが変わっても一緒にランチを取るほどではないとは思うが、まあ無理なら1人で食うだけだ。
乃愛は人気者で、なんでもできて、器用で、だからこそそのままの彼女でいなければならない。間違っても、オンボロアパートでコストカットの権化のような夕食を食べてると知られてはならない。俺と暮らしている事なんて以ての外だ。
首元から感じる熱を身体中で感じながら、俺は目の前で穏やかな寝顔を見せる乃愛を見ていた。こっちまで幸せになりそうなくらいの寝顔だった。結局その後、俺たちは同じ布団の中で、お互いが寝顔を見せ合いっこして過ごした。明日は教科書販売、明後日は新入生歓迎会、そして明々後日からは新学年のスタートだ。また慌ただしい生活が始まるのだから、今くらいのんびりしておこう。そう申し合わせるように、その日は布団にくるまって2人ごろごろとしていたのだった。




