4月25日その④
「ほい、古村さん牛タン」
「わーありがとう新倉君」
「遠坂元気出せよ。ほらお前のゴリ押しで買ったスペアなんたらいけてんじゃね?」
「スペアリブだ。いただこう」
「近藤さんほら!鶏モモいけてる」
「あ……うん、ありがとう」
「竹川さんソーセージいけて…」
「待って!!もう少し、もう少しジュワッでしてから……」
「じゃあそれまでにこのサーロイン食べたら?」
「いいねいいね!もらおうかな……」
「あのさあ?」
突然呆れた顔と声で近藤が尋ねてきた。
「新倉くん、なんで焼肉奉行的な立ち位置に収まってんの?」
俺は菜箸で肉をひっくり返しながら答えた。
「さ、さあ?何でだろ?」
「というか肉食べてます?」
竹川がサーロインをタレに浸しつつ尋ねてきた。
「あんまり脂っこいの好きじゃないんだよ」
「ベジタリアン?」
「そこまでじゃないよ。ほら、イカも食べてるし」
そう言って見せた自分の紙皿には、玉ねぎととうもろこしとピーマンとイカが乗っていた。
「新倉くん牛タンいるー?」
乃愛はそう言って先ほど俺がひっくり返した牛タンをチラつかせた。まだ焼きが甘い気がしたが言わないことにした。
「いるわけ無いだろそんな脂味の塊みたいな代物」
「スペアリブは?」
「まだそっちの方がいい」
「ウィンナーは?」
「苦手だな」
周りから首をかしげられることには慣れていたから、竹川の煽りでは無いかと思うほど曲げた首には全く反応しなかった。そこまで大げさにしなくても…
「あ、そろそろいいんじゃ無い?焼きおにぎり!」
焼きおにぎりは最後に食べるもの!という乃愛の謎の提案により、端にちんまり置かれていた袋を近藤は指差した。
「そうだね!さあ、みんなの分のおにぎりだよ!」
中から出てきたのは、しっかり個別包装された5つのアルミホイルの塊。
「これ全部1人で作ったのか?」
遠坂の質問に、乃愛は少し照れながら答えた。
「いや、ちょっと手伝ってもらったけれど…」
「お母さんとか?」
竹川はそう言いつつもうおにぎりを1つ手に取っていた。他の2人も同じような考えだっただろう。家族の誰かに手伝ってもらったと。乃愛が何とも言えない照れ顔をしていたから、その推測は更に真実味を増していた。でも実際は違う。手伝ったのは俺だ。今日の朝、いつもより早起きして2人で作ったのだ。乃愛の握る上手さに驚愕した覚えがある。
「これあれでしょ?さしずめ上手い方が手伝ってもらったやつでしょ?このしっかり三角になってるやつとか」
近藤がニヤニヤしながらそんな予測を立てていたが、残念ながらそれは乃愛が握ったものである。形の崩れたものが俺のだ。いくらバイトで調理をしているからと言っても、単純な料理スキルは乃愛の方が上だ。悔しいが認めざるを得ない。
乃愛はなんとも言えない顔をしながら、
「う、うん。そんな感じかな?」
と言っていた。その顔には、そっちを自分が握ったものだよという告白と、実は友一と握ったんだという告白の、両方が入っているように映った。




