4月22日その④
2人は並んで野菜コーナーへと向かっていった。隣でカタカタとカートを押す近藤と、店内に流れるよくわからない音楽に耳を澄ませる陰気男という構図は、中々にシュールなものに思えた。
近藤はいつもの野球部ジャージ姿ではなく、少しおめかしした黒色のブラウスを着ていた。それが彼女の細めの身体にマッチしていた。竹川にしてもそうだし乃愛にしてもそうだが、こういう時に綺麗な服を着るのが女というものみたいだ。私服なんて常日頃から見ているだろうと呆れてしまうのは自分だからか。陰気男だからだろう。
「賞味期限見て買わないと。すぐ使うわけじゃないから」
と言いつつ野菜を見る近藤。いつもより視線があってない気がしたが、多分自分のせいであろう。思い当たる節は、ないわけではない。
「まあ野菜はカット野菜とか買わん限り大丈夫なはず。キャベツとかぼちゃとさっき推してた玉ねぎと……後何いる?」
「うーん、とうもろこしとか」
「いいね」
ぱっと見て、その場で物を入れていく。
「て、手早いね…」
「そう?」
「触ったりして確認してるけど、美味しそうな奴選んでるの?」
「まあそんなとこ。キャベツは見た目の鮮やかさもそうだけど芯の白色が綺麗かよく見てる。後大きさ。大き過ぎると成長し過ぎてて良くないし腐りやすい。かぼちゃは中の色が濃くって種が熟れているもの。玉ねぎは芽が出てたり表面に傷がないものを選ぶ。何より大事なのは腐ってないことだから」
そしてナスも籠に入れた後に、とうもろこしに手を伸ばす。
「……ごめん、とうもろこしはどれがいいかわかんないから、選んで」
「え?あ、マジ?私全然スーパーとか来ないからわかんないんだけど…」
じーーっとみて、うぬぬーと頭を抱えてしまった近藤。スーパー内の蛍光に反射した赤髪に細い指が入っていった。
「そ、そんなに悩むなら俺が…」
「これだぁ!」
そう言って手に取ったのは、そこにあるとうもろこしの中で1番大きな代物だった。それを俺は、何一つ抗議せずスルーした。
「あ、あれ?」
「ん?」
「い、いや…なんか反応あるのかなって…」
「ま、まあ別に?俺が選べって言ったんだし、文句あるわけないじゃん」
あれ?なんかおかしかったかな?そう思いつつ彼女の顔を見たら、そのどこを見ているかわからない視線に余計戸惑ってしまった。
「あ、シーフード系いる?エビとか」
なんとなく言葉を紡ぎたくなって、こんな提案をしてみた。まあ、エビは好きだし。
「あーいいかも!イカとか焼きたい!!」
「んじゃそっち行く?」
「行こう!」
そう言って振り返り、魚売り場へ行こうとした。肉売り場とは真反対で、多少何か話しても乃愛たちに聞かれない距離だった。
そして魚売り場について、磯の香りが鼻にきた頃、近藤は小声で囁いた。
「ねえ新倉くん。乃愛とはどんな関係なの?」
前とは違い、威圧の入った声だった。まあ、そりゃそうだろう。恐らく俺が下の名前で呼ばれたのも、耳に入ってしまったんだろうな。




