4月22日その②
「ごめーん遅れちゃったあ」
てけてけと歩いてきた竹川は、乃愛に抱きつこうとしてその半歩前で少しだけ突起したコンクリートに躓いてしまった。これでは抱きつきではなく、押し倒しだ。乃愛はそのまま俺の方向に倒れてきた。咄嗟のことで反応できなかった俺は、そのまま乃愛と竹川の体重をかけられ押し倒されてしまったのだ。
どしーんという音が聞こえてきそうな、3人おしくらまんじゅうだった。地面と接した背中は痛みで悲鳴をあげていた。それを必死に押し殺しつつ、俺は背後にあった自転車を見た。よかった。自転車のそばに立っていたから、連鎖して倒れて自転車が壊れたりしたら出費が重なるところ…
「ゆ…新倉君?なんで倒れている私達の心配ではなく自転車の心配をしているのかなあ?」
「当然だ。自転車は人間より壊れやすいからな。人間は多少倒れたところで痛みを感じるだけだが、こいつは骨組みから曲がる恐れがある」
そう言いつつ胸から下に乗っかっている乃愛と乃愛の胸から下に乗っかっている竹川の重さから脱した。すっと足を抜いて、パンパンとGパンについた細かな砂利を払った。
「ご、ごめんなさい!!乃愛ちゃんも……えーっと……えっと……」
「新倉だぞ、竹川」
「そう!ありがとう遠坂君!新倉君、怪我ない??」
流石に班の名前くらい覚えておけよと言いたくなったが、俺も女子の名前はまだまだ怪しいので口に出すことはしなかった。
竹川はぱっと駆け寄ってきて、キュッと手を掴んだ。
「擦り傷とかない??大丈夫??」
さっとソフトタッチで手を触る素早さ。身長もあってほんの少し上向いている視線。そして反省を見せつつ女性らしい艶っぽい声。何よりその胸!その胸を強調するパンパンのTシャツ!間違いない。こいつ、天然か人工かはわからないが、魔性の女だ。
「だ、大丈夫だよ。ほら、行こう、な?」
俺は視線を逸らしつつ言った。その逸らした視線の先に、ようやく立ち上がったばかりの乃愛がいたのは偶然だ。もう一度言う。視線を逸らしたら偶然乃愛が居たのだ。たまたまなのだ。
ここでデレデレしやがってみたいな顔をしていたならまだいい。倒された癖に満面の笑みを浮かべて居たのが、なんとなく鼻についた。おい!そのなんのケチもつけられない100点の笑顔はなんだ?思考が読めなかったのでふいっと違う方を向いた。
「ほんとに?ほんとに大丈夫??」
なおも食い下がらぬ竹川。それに終止符を打ったのは、乃愛ではなかった。彼女は俺の手首を掴んでばっと竹川から左手を奪い去り、少し捻りを入れてじっと見た。
「擦り傷くらい見りゃわかるでしょ?大丈夫よ」
そして近藤はぱっと手を離して、さっと踵を返した。少し睨まれていた気がするのは勘違いだろうか。気のせいということにしておこう。それでも俺はちょっとだけ怖くなって、遠坂の隣を確保し先に女子達を歩かせていたのだった。そのままスーパーまで、おそらく仲良く話しているであろう3人の後ろ姿を見つつ、遠坂と取り留めのない話に終始していた。




