4月3日その③
古村乃愛は、みんなの人気者だ。
まず、水泳部自由形のエースである。しなやかな体型と細く長い手足はどんな水泳ウェアも着こなし、そのクロールを泳ぐ姿は水上の女神と評されることだ。そして美しいだけではない。速さも一級品。去年も我が弱小水泳部の中で唯一県大会まで進んだ。それだけでも人気者たる所以となるだろう。
更には、我が高校の生徒会長でもある。水泳部が冬場練習時間が減少することにつけ込まれて去年1年生ながら任命された。しかし、先輩方を纏め上げて様々な新しい取り組みを行った。特に、これまで文化祭と2週間しか空いておらず、また9月の上旬という熱さでやられてしまいそうな時期に行われていた体育祭の時期をずらしたことは、全校生徒から感謝されていた。今年度から9月文化祭10月体育祭11月修学旅行というスペシャルな日程になったのだ。これはひとえに、これまでこれでやってきたからと頑なに拒否する先生方を粘り強く説得した彼女の貢献が大きいだろう。
その上、頭脳明晰でクラスの中ではトップ3をキープしている。塾や予備校にも通わず、追加で問題集も買わず、学校からもらった(というか買わされた)ものだけでやりくりしている。それでこの成績である。一部では1位より価値のある3位とすら言われていた。
まだまだある。性格の朗らかさだ。これに関してはロールプレイというより素が出ているためだとも思う。外ではさっきまでの中途半端な神戸弁は控えているらしいが、驕らず対等な目線で、たまにくる嫉妬にも笑ってやり過ごすその姿はその人気と羨望に拍車をかけていた。
そして何よりあげられるのはその容姿であろう。黒髪ロングの艶やかな髪に端正な顔立ち。160を超える身長に50キロを切る体重。痩身ながら少し膨らんでいる胸。いわゆるモデル体型に、ぱっちりした目と適度に立った鼻筋と小さな顔があれば、誰しもが万雷の拍手をあげるであろう。
誰もが認める憧れの的、それが彼女なのだ。今は机に頬をつけてぐだぐだとしているが、それは家の中での姿。一歩外に出ればもう、学園のアイドルになるのだ。
「あ、生徒会で昼ごはん食べ……あかん。遠坂君おるから……」
「あーあいつ同じクラスなんだ。黒縁メガネかけてる書記?の人?」
「そうそう、やっぱりぼっち飯?それか昼抜き?」
「どっちか選べと言われたらぼっち飯だな。便所飯でもいいから昼飯食べたい」
弁当を作る役割は乃愛だ。結構料理もうまいのだ。これももし知れ渡ったらプラスポイントだと言ってさらに学内の評判が上がるであろう。
無論こうして、毎日彼女と一緒に暮らしているなんてこと、学内では一切合切公言しないない。だから誰も、俺みたいな影薄根暗人間と彼女みたいな羨望快活人間が、同じ屋根の下で生活していることを知らない。知られないように、この1年間生きてきたのだから当然である。




