4月22日その①
私服の高校における最も残念な点は、たとえ休日に出かけたとしても私服が見慣れすぎていて何一つ新鮮さがないことであろう。例えば制服の高校ならば、気になるあの子の私服姿を想像したり、気にならなかったあの子の私服姿でときめいたり…そんなどきどき感があるものだというのに、全くもってそんな楽しみはなかった。
「これは由々しい事態やと思わん?友一」
「何お前モノローグみたいに話してんだよ。思わねえから」
先ほどの地の文は早めに着いた集合場所で切々と乃愛が語っていたものだ。そんな乃愛だが、今日はお出かけ用にと一枚だけ持っているなんたらというブランド服を着ていた。先程の話を撤回していただきたい。日頃見れない服という点では、それは正しい意味での私服ではないだろうか。
「えー例えばさ。私のこの服…」
「何着ても乃愛は乃愛だよ」
「なんでー!まだ言い終わっとらんよ??」
ぷーと頬を膨らます乃愛を尻目に、俺はサドルに腰掛けながら辺りを見回していた。夏かと錯覚するほど暑い土曜日だった。水泳部の練習が午前中にあったという乃愛は、少しだけ黒髪がしっとりしていた。今日は完全にオフだった俺は、色々寄って、神社へ水汲みへ行き、それを部屋に置いてからここに来た。時刻は1時20分。集合時刻まで10分ほどだ。
「あ、そういや友一、ピアノの練習しよった?」
突然乃愛が尋ねてきた。
「今日の朝か?」
「うん」
「流石にな。序でにJCカフェまで行って、当日の流れとかも一応確認した」
「まだ先やのに偉いなあ」
「でももう10日くらいだぞ?本番まで」
それを聞いて、乃愛はひゃっ!!と大きな声を上げていた。
「え?ゴールデンウィークってもうそんなに迫っとるん?」
「4/29をゴールデンウィーク初日だと定義するなら来週には始まっているな」
「待って待って待って、怖い、怖いこと言わんとってや」
「時間が経つのは止められないからな」
少しだけ間を開ける乃愛。
「……そうだね……」
と笑う彼女は、少しだけ寂しい顔をしているように思えた。しかし折角の土曜日にお出かけしているのだから、それを極力表に出さないよう振舞っているようだった。無邪気に言葉を紡ぐ乃愛。
「友一のピアノ、めっちゃ楽しみ!!なんせ1年にこの1回しか聞けんからね」
「ん?ピアノ?」
ぱっと2人後ろを向いたら、そこには野球部ジャージを着た近藤が立っていた。日差しに照らされ赤色がより目立っていた。
「来てたの?ちかちゃん…」
「あーうん、今着いたとこ。待たせてごめん」
ぺこりと頭を下げる近藤につられるように、俺も乃愛も頭を下げた。
「新倉君、ピアノやってるん?」
そして突然にして当然の質問が飛んで来た。
「あーうん、まあ…そうだけど…」
「すごい!かっこいい!」
「た、大したことないから…」
「どこかで演奏するの?」
答えるかどうか逡巡した瞬間に、竹川と遠坂が集合場所に到着した。今日はBBQの買い出しの日なのである。




