4月18日その②
薄々気付かれていると思うが、うちの学校は自由な校風だ。近藤のように髪の毛を赤色に染髪しても怒られないし、武田のようにピアスをジャラジャラと付けていても怒られないし、古森のように膝上30センチに迫ろうかという超ミニスカを履いていても怒られない。髪型服装アクセサリー、全てが自由な校風だ。これは昔からの伝統で、中高生にも周知のことで、それ故にこの高校を憧れる生徒が後を絶たない。特に少し大人への背伸びをしたいJCからしたら、口紅も化粧もネイルも許される藤ケ丘高校はこの世の極楽であろう。
そしてそうした外面的な部分だけか、藤ケ丘高校の自由さではない。
「BBQ何買うかまで自由にしていいんだってな」
いつも通りのバイト後の晩御飯、俺が食べている間、乃愛は特売で買ったプレーンヨーグルトをプレーンのまま何もつけず食していた。美味しいのだろうか、それ。
「家にある食材もっていけるやん」
「そんな余裕はない」
「知っとる」
ほくほく顔の乃愛を見て、今度俺も試してみようと思うことにした。
「お金だけぽーんって渡して、これで自由に食材買え!って、改めて雑なシステムしとるよな」
「うちの校風にあってんじゃない?ほら、自律ある自由、だっけ?つーか、その辺は生徒会会長さんよく知ってんじゃね?」
「遠足はうちら絡んどらんからなあ。時期も生徒会選挙中やし」
遠足は来週の火曜日に行く予定だった。立会演説会の前日である。
「結構ハードなスケジュールじゃね?」
「ん?何が?」
「いや、立会演説会の前の日に遠足って」
「あーせやなあ。でもまあ、演説の準備とかこれまでやってきたこと話せばいいだけやから楽っちゃ楽やと思うで」
そう言って笑う乃愛だが、小心者の自分からしたら簡単に言ってのけるその言動すら緊張を覚える代物だった。
「そもそも、候補者出んのか?」
「わからん。生徒会なんて貧乏くじやと思っとる人がほとんどやろ?選挙になる方が難しいし…」
それもそうだなと思って、俺はポテサラ最後の一口を飲み込んだ。みんなが自由に生きているこの学校において、生徒会活動は規律を上げることよりイベントを楽しく行う方向に注力されていく。言うなれば学校行事実行委員会だろうか。少なくとも他生徒を『お前ら』などと呼び権力者気分に浸ったり、悪さを働く生徒に物理的制裁を加えたりは絶対しない。まあ最近は先生すらそういったことにうるさいご時世だ。生徒なら言わずもがなだろう。
「楽しい遠足になるとええね」
グダグダ考えていたのを見透かされたように、何一つ思考の働いていない言葉で会話が締めくくられてしまった。すぐしょーもないことまで思考を深掘りするのは俺の癖だ。
「まあ、やるからにはな」
「ちゃんと仲良くするんだよ!ちかちゃんに、和ちゃんに、遠坂君!」
「まあ、そこそこにな!」
「後私も!」
少しだけ丸くなった目を見逃さず、乃愛はニコッと笑った。
「まあ、そこそこにな」
俺はそう言いつつ、下手くそな笑顔で返したのだった。




