4月18日その①
カラスが翼を落としていた。街のど真ん中に立地する藤ケ丘高校ではベランダに羽が落ちることもままあった。不吉の前兆、と考えるのは迷信が過ぎるというやつだろう。例えば今最高に雨の降りそうな天気だが、それも杞憂に終わるのだろう。そう信じたい。あの家、雨が降ると秒で雨漏りするからだ。
「なあ、新倉」
呼びかけられて振り向くと、背後に遠坂が立っていた。
「お前、なんで3人組作れって言われてんのに席に座ったままなんだ?」
「別に俺、余り物でいいし」
「せっかくの遠足になんてこと言ってんだ?」
「別に組みたい奴とかいないから…ほら、このクラス男20女20だから、いっこ2人組出来んじゃん。俺その余った2人組になるから」
この時の俺は不機嫌なわけでも、クラスに不満があったわけでもない。ただ、雨が心配で仕方なかっただけである。早く家に帰らないと…帰って雨に備えないといけないのだが、今日は遠足のBBQ班を決めるホームルームがあっていつもより長引いていたのだ。
「んじゃ、俺も余り物だし、俺らでチーム組むか」
「あー別にいいけど…」
「それじゃあ、とりあえず言いに行こうぜ!」
そう言って立つよう促す遠坂。仕方なく俺は席を離れた。しかし頭の中は、未だに効率的な床の吹き方と効果的なバケツの置き方に終始していた。
「今野ー?俺と新倉で2人組」
「お、ぴったりじゃん!んじゃお前ら2人7班にして……かんせーい!後は女子達のやつとくっつけるだけだな」
気づいたら他のところは3人班が出来ていたようだった。みんなすごいな。2人組はまだしも3人組をこんなに早く作れるなんて…もしかしたらこのクラス、めちゃくちゃ仲が良いのかもしれない。しかしその輪に入りたいとはあまり思わなかった。
後ろの黒板に男子の班分け、前の黒板に女子の班分けが書かれていた。お互いの班わけを見やって、どの班がいいか耳打ちが始まっていた。
「やはり3班だろ?顔の近藤身体の竹川、そして全てが完璧な生徒会長!」
「2班も中々よ?高見に嘉門に真砂って」
「俺は6班いいな。古森ともっと話してみたい」
こんな声が男子内で上がっていた。無論、向こう側に固まる女子達に聞こえないようにだ。その反対で女子達も一部耳打ちしあっていた。恐らく向こうからしたら有田今野渡辺とクラスのイケメン3銃士が揃っている1班か、沢木篠塚結城の野球部3人固まった5班が人気だったであろう。
「んじゃまず7班の人、くじ引きに来て」
ここからくじであるが、ぼけっとしていたら遠坂につつかれてしまった。どうやら俺がくじを引けということらしい。俺はクラス委員長の阿部が持っていたくじの元へ歩いていき、箱に手を入れた。
「7が出たらもう一回ねー!さあ、何番!!」
なるほど7班は女子も2人だから、それを避けるための最初か。ようやく1番最初にくじを引く意味を理解しつつ、一枚の紙を選択してそれを広げた。
そこに書かれていた数字は……3だった。
「それじゃあ男子7班は女子3班と!!」
そう高らかに宣言した阿部のせいで、後ろからため息と羨望の眼差しを多大に受けてしまったのは自明のことである。




