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8月25日その①

「それじゃあ今から確認していくやで、不備があったらその場で解き始めるように」

「うーい」


 まだまだ暑い夏の夕方、乃愛(のあ)はわざわざ扇風機を俺の方に向けさせながら、ちゃぶ台の近くで立ち上がっていた。俺はそれを下から眺めていた。ふとした時にTシャツの中身がチラ見しそうになっていたが、あえて指摘しないのが紳士の嗜みだ。


「数学!」

「青チャート地獄ならさっき終わったよ」

「リーディング!」

「クソほど重たい長文の参考書全部解いたわ」

「単語!」

「文法も含めクリアした。ネクステはしばらく見たくない」

「ライティング!」

「夏の思い出が特になかったから適当なことでっち上げて書いた」

「……いやそこは旅行したことかこーや」

「旅行終わったの一昨日じゃねえか。この宿題やったの7月の末だぞ」


 ここで乃愛は少し膨れた顔をしていた。お、今から訂正しろと?流石にそれは出過ぎた意見だと理解はしているような不満顔だった。


 机の上には何冊もノートが置かれていた。たまに学校指定の参考書もあった。まだまだ、これで半分くらい。


「古文単語!」

「英単語に比べたら緩かったな」

「古文感想文!」

「今回の宿題で最も意味がわからなかった。これ出した教師は馬鹿だと思う」

「現代文!」

「モーツァルトの本の読書感想文なら最早読まずとも書ける」

「……生物は何あるんやっけ?選択しとらんからわからん」

「2学期の範囲のノートまとめ。なんか地味に時間かかった」

「問題解くだけやないしな。社会はないんやっけ?」


 俺はこくんと頷きつつ伸びをした。確信したのだ。


「家庭科の宿題は?」

「JKカフェの入り口にある段差について。多分あれ車椅子の人とか超入りにくそうだし」

「で、総合は前にまとめたから…ゆーいちはこれで終わり?」


 ここまできたら何となく我々が何をしているのかわかってきたのではないだろうか。


「んじゃ次は俺がチェックリスト呼ぶから……英数は別に良いかな」

「まあ文系と理系で範囲が変わるようなことはない……いや青チャートはあった方かもしれんがそんなもんよ」

「現代文!」

「ちかちゃんに教えてもらった昔話アレンジしたった」

「物理!」

「演習問題ばっかりでうんざりしてもうた」

「家庭科は?」

「最近行った水泳の競技場で階段ばっかりやったから」


 と、ここまで2人して内容確認すべく机に資料を並べていた。しかし、それももう終わり。


「つまり?」

「つまり……」


 俺たち2人は大きく息を吸った。そして吐き出す。


「夏休みの宿題、おわった!!!!!!」

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