8月24日その⑤
バイト先に着いてまず行ったのがお土産を配ることだった。
「店長、味噌買ってきましたよ」
「おーさんきゅ」
そんなに味噌ひとつで変わるものなのだろうか。こだわりがないからわからなかったが、店長はタバコをふかしつつ大事そうに抱えていた。
「後辻子さんキーホルダー。こんなんでよかったっすか?」
「ありがとう!嬉しい」
そう言いつつ牛をかたどった手のひらサイズのお土産を渡した。鍵とかにつけるのだろうか。そして同じものを塚原にも渡した。
「お肉はどうしたんすか先輩」
「買えるわけないだろ」
「蟹は?」
「時期が違えよ」
「せめてスイーツ的な……」
「それは買ってきたからみんなで食べてください」
お饅頭は更衣室近くの棚の上に置いた。別に何の変哲もない普通の代物だ。貧乏困窮な財布事情からお土産は以上である。
「ハシラやゴリョの分も残しとけよ。後朝のパートの人らの分も」
一応店長はこう言っていたものの
「柱本先輩は大丈夫でしょ?」
「テスト終わってサークルの旅行だって海外に高飛びしたんでしたっけ?」
「いらないいらない、むしろハワイで良いもん買って来いって感じっすよ」
「本当それです」
口々にぞんざいな扱いを行う辻子さんと塚原。いつの間に柱本先輩はこんなキャラになってしまったのか……生肉食べたあたりかな?多分そうだ。
「そういや今日樫田先輩は居ないんですか?」
俺は鞄をのんびり開けていた店長に話を振った。店長は視線を落としつつ答えた。
「なんか急用ができたってよ。仕方がないから20時からはゴリョ呼んでるわ。研究で忙しいらしいけど無理言った」
「急用……?」
「内容はわかんないが、あいつは生真面目だしよっぽどのことがあって休んだんだろうよ」
そうか残念だ。俺は彼に、樫田先輩に聞きたいことがあったというのに。つまるところ、樫田さんに繋がらなかったのも同じ理由の可能性が高い。
しかし都合のいい話だな。俺が市役所に来たその日から母も息子も連絡が取れなくなるなんて。いやそれは流石に邪推がすぎるか。この星は別に自分中心に回っては居ないのだから、たまたまはまだまだあり得る。
「んじゃ、21時まで頑張ってな」
一足先に店長が階段を降りていった。そして辻子さんがそれに続く。その2人の動きを待っていたかのように、塚原がいつもの低い声で声かけてきた。
「で?旅行で何があったの?」
尋ねてくる塚原。俺はもう答える気力も無くなっていた。旅行中のことと旅行後のことで頭がいっぱいいっぱいだったのだ。俺は適当にいなすこともせず、
「色々あった」
と答えたのだった。色々とは?そりゃもう……色々だ。




