深夜バイトと告白×2
「いやー今日のバイトおわおわ!」
「まだ終わってないっすよ、柱本先輩」
「いやー先輩なんてやめてよー!君の方が年上でしょ?樫原君」
「樫田っす。塚原先輩と被ってますよ」
「樫田君高校生にも先輩付けなの?」
「悪いっすか?」
「いや悪くないけどさあ、調子狂うっていうか…」
「2人ともバイト歴は自分より上っすから」
「じゃあ、新倉君にも?」
「新倉先輩っすね」
「いやー絶対に調子狂うなーそんなの!まあ100歩譲って異性だったらそうやって呼ぶのも分からなくないけど、男同士で年上から先輩呼ばわりって、向こう的にどうなの?」
「指摘されたことないっす」
「気にしないのかなあ、あの子」
「気にしないんじゃないっすか」
ガチャガチャガチャ、お皿を濯いで食洗機に入れていく
夜11時のこの時間、新しく来るお客さんも少なくなっていた
そりゃ日曜日の夜に、こんな時間から飯を食べようとする人間なんぞニートか暇な老人くらいだろう
そんなひどいことを思いつつ、私はお皿を濯いでいた
遠くでは店長が今日の食材ロスを計算し、樫田君は早めに油汚れの掃除に当たっていた
「あ、そういや樫田君って男よね?」
「女子にでも見えたんすか?」
「新倉君のこと、何か知らない?」
「知らないっす」
単刀直入な言い回し
そして彼は黙々と掃除を続けていた
「え?本当に何も知らない?」
「知らないっす。自分、コミュ障なんで」
「真のコミュ障は自分のことコミュ障って言わないのよ。わかる?」
「じゃあコミュ障じゃないっす」
なんだそれは……私は流石に呆れてしまった
それと同時に、最後のお客さんが帰る
昼間頑張って稼いだおかげで、もう食材は底を尽きようとしていた
店長からの指示が入った
「ハシラ!閉めて!」
よくよく聞くと意味のわからない言葉の羅列だが、それで私には通じる
私は閉店の立て看板を持って玄関に行き、立てかけるとともに鍵を掛けた
その後はレジ締めだが、これは暇な作業だから嫌いだ
「あの子ってさ、なんでバイトしてるのかね」
油掃除が終わったのか樫田君はこちらに食器を取りに来ていた
店長はロスが取り終わったのか、少しゆっくりめに階段を登っていった
「気になるんすか?」
「気になる」
「本人に聞いてみたらいいじゃないすか」
「聞いてみたよ!そしたらはぐらかされたんだよ!普通藤高の生徒ってバイトしないじゃん」
「まあ勉強してるか部活してるか両方してるかって感じっすね」
ガチャガチャと皿を運ぶ樫田君
「なんでだろう…」
「………」
「おい、なんで黙った?」
「……多分、そうじゃないと生きていけないから、じゃないっすか?」
「おう??知ってる口ぶりじゃないか?」
「知らないっす」
「いーやハシラの目は誤魔化せない!何か事情を知っているとみた!」
「知らないっす」
「教えてくれたら彼女になったげる」
「別にいいっす」
「なーんでよー!!!」
むううと不満な顔をする私
表情の変わらない樫田君
「………」
「…………」
「………」
「…………」
仁王立ちして沈黙する2人
観念したかのように、樫田君は口を開いた
「鷹翅」
そして呟いたその言葉に、私は声を失ってしまった。
「……わからないっすけどね。ただ、見たことあるんすよ」
ああ、聞かなきゃよかったな
私はすぐ調子に乗る自分の癖を大いに反省していたのだった




