8月24日その②
市役所が好きな人はいないだろう。公僕の仕事に憧れている人はいるかもしれないが、その場所を好んでいる人はごく少数であろう。病院とか消防署とはわけが違うのだ。
槻山の市役所は歩いて15分の所にあって、歩くとそこそこ暑くなる。しかしそれを冷却するほどのエアコンは効いていなかった。電気屋とは勝手が違うのだ。涼みに来るにはもうちょい予算を叩いてほしいと思ったが血税が使われているのだから仕方ない。自分含めほとんど来る機会のない施設なのだからと理解することにした。そこで働く人達には申し訳ないけれども。
自動ドアをくぐったらいきなり怒声が飛んできた。
「責任者出してこい!!!!!!おい、責任者出してこいって言っとるんじゃわしは!!!!!!!」
窓口に立って唾を飛ばしつつすごんでいるのは老人。対応しているのは気のよさそうな女性。
「申し訳ございませんがどういった内容かお伝えいただけませんで……」
「お前らみたいなやつらに説明したってしゃーない!!!!いいから市長呼んで来い!!!!」
窓口でやんやんとわめいているがだれも止められやしない。見るからに貧乏そうなよれよれのシャツを着ていたし、なんか少しくさい匂いがした。お風呂に入って来いよ良い年齢の男性だろ?なんて言っても仕方ないけれども。
施設の案内図を見て少し落ち込んだ。今絶賛揉め事中の窓口を通らないと、目的の戸籍課まではいけないらしい。流石の俺も周りに分かるようにため息をついて、髪の毛をポリっと少し掻いた。争い事は嫌いだなんて言えば、流行りのラノベの主人公のようだ。いやいや、好きな奴いないだろというのが本音である。
なるべく息を殺して歩いていく。ただでさえ市役所は老人が多いから、若者が来るのは目立ってしまう。そりゃ、どこの世界の高校生が自分の戸籍を獲得するために市役所に来るというのか。日本中でもオンリーワン?言い方次第でプラスにもとれるが、そういうポジティブキャラではない。
背中から暴れている男性老人を凝視してみた。ぼさぼさの髪はしばらく風呂に入っていなかったのだろう。靴はどこで拾ってきたのかと呆れてしまうボロボロのスリッパ。ズボンも穴あきで、肌は垢塗れ。対してその対角線にいる女性はとてもこぎれいな若い女性だった。もしかしたら10代かもしれないと錯覚するほどの肌つやだった。
「卒業したら、市役所で働くんだ」
乃愛がふと言ったそのセリフを思い出して、ああこの2人が自分たちの未来なんだなと横目で見ていた。汚い老人を自分に投影したら、思ってより間違って無くて泣きそうになった。




