8月24日その①
時間だけは絶えず進んでいく。たとえ足を止めてしまったとしても、過去が世界を支配してしまったとしても、時計の針自体が止まることはない。
朝目を覚ますと、もう彼女は消えていた。荷物をまとめて、何処かへ行ってしまったのだろうか。最初はそう思ったのだが、ちゃぶ台の上には豚キムチが置かれていた。ご飯も炊いてある。時計は午前11時を指していた。寝坊助が過ぎるな、反省しつつ歯を磨き始めた。
何気なくスマホを眺めていると、LINEの通知が100件を超えていた。グループでの会話がその全てだった。旅行、他のメンバーは楽しかったのだろうか。たくさん写真をのっけているから、楽しかったってことなのだろうか。
口を濯いでご飯をつぐ。そして朝ごはん兼昼ごはんを食べ始めた。今日はバイトがないから、何をしていよう。夏休みの宿題も、大体終わりつつあるし。
一人暮らしを始めると3食ご飯が食べられなくなるとはよく言ったものだが、まだ受験生だった頃はその典型だった。育ち盛りの食べ盛りだったが、用意するのが面倒で、気がついたら朝昼や昼夜が兼用になっていった。お金がないのもその理由の一つだ。
そういえば……金がないで思い出した。やらなきゃいけないことが一つあった。水面下では動いていたことなのだが、そろそろ正式な手続きに行かなきゃいけない。
夏の暑い日に外出するのは嫌だが致し方ない。その日の行動は、市役所に行くということで手を打つことになった。
ピロリン♪通知はまだ入っていた。楽しかった思い出を話す同級生達。その中に、なんとなく入れなくて流し読みしていた。
やはりどうしても不思議な感覚だった。彼ら彼女らは極々普通の、いや一部やばい女とかいるけれども、それでも一般的な高校生だ。孤児院で過ごしたこともない、両親もいるし兄妹だっているかもしれない。そんな当たり前で、幸せで、愛おしい存在を持つ高校生達だ。
それに俺が混ざっているのだ。毎日生活していくだけでも必死なのに、家族なんていたことないのに、普通なんて、逆立ちしても手に入らないような自分が、普通に擬態してここに居るのだ。とても不思議である。嫌じゃないけど、心地がふわふわしてしまった。
分不相応である。そんなことは知っている。だからこそ今日は、少しでも普通になる努力をしよう。戸籍謄本に関する窓口を調べたのち、俺はご馳走様と手を合わせて食器を洗った。そして念のため、乃愛のLINEに連絡を入れた。
「市役所行って、戸籍取ってくる」




