2日目夜の部その③
生まれて初めて花火をした。河原についてから、周りに流されるように花火を受け取り燃やした。
様々な色を露呈するかと思ったら、とてもわかりやすい勢いで射出されたり……花火は人間社会より千差万別だった。
俺はこの世界でモブなのだろう。主役を張るなんて、そんなおこがましいことなんてできない。その辺にいる人間を引っ張り出してきても、主人公補性なんて効きやしない。
何が言いたいかっていうと、もう誰かに期待するのはやめようということだ。
花火も終盤、俺は全く輝かない花火を手にしていた。小さい火種がぽっとついて、燦々と照らすことなく燃え続いている。何となく可愛いそれの名前は、線香花火というらしい。
なかなか落ちない線香花火を見て、つい自ら手を下してしまいそうになった。別に消えても良いんだよと。無理する必要なんてないんだよと。
なのに火種は消えないままで……このまま消えないと、願いが一つ叶ってしまうらしい。そんな、モブには使い辛い設定なんていらない。
ただこのまま、誰かの決定に身を委ねて生きていけば良い。それだけで、俺は満足なのだから。
「中々落ちないんだね、線香花火」
ぼんやりと火を見つめる俺に、近藤はそう言葉をかけつつ隣に座った。
「ぼーっとしてたら落ちなくなった」
「ねーすごいね!願い事が叶うよ」
そう言いつつ近藤が火をつけた線香花火は颯爽と地面へ落下してしまった。選んだ花火が悪いのか、それとも近藤自身が悪いのかは不明だ。
「……ねえ、新倉くん」
近藤の冷たい声が鼓膜を揺らした。俺は一瞬、自分の名前が新倉であることを疑ったくらい動揺してしまった。
「貴方はさ、一体……何を願っているの?」
そして彼女は、これまでとは少し違う表情で見てきた。そろそろモブの時間が終わってしまう。それを言語化せずとも心根で理解していた。
「私はね……君の願いを、聞いてみたい」
理解していたけれども、俺はそれから目を逸らした。願いなど、俺には存在しないだなんて。本当は誰より、叶わないどうしようもない願いを抱えて生きているというのに。
俺はぷいっと横を向いた。子供のような意思表示だった。未だに火種は途絶えていなかった。いつまでもいつまでも、線香花火は輝きを失わずに……
そうまるで花火にすら、気を遣われてしまったような錯覚。俺は乾いた笑いを必死に抑え、目の前の赤髪少女から逃げ続けることにしたのだった。




