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Neither Nor〜友人にも恋人にもなれない2人の物語〜  作者: 春槻航真
とあるクラスの打ち上げモード
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2日目夜の部その②

 茨田駅に着いて最初に竹川(ちくかわ)がこう宣言した。


「花火やりたい人ー!!!」


 それに結構な人数が同意していた。


「うわー!!!!忘れてたあ!!」

「のどかちゃん超ナイスじゃん!!」

「マジで!?まさか用意してたり……」

「そのまさかだよー!!バケツも着火マンもしっかり準備済み!!向こうの河原火気OKだからやろー!!!」

「おおおおおー!!!!」


 盛り上がる中で俺は、すっと帰ろうとした。多分ここで帰ろうとしても、誰も気づきはしないだろう。何か自分が主人公にでもなったような錯覚からは覚めてしまったのだから、1人帰路についてここ2日間のことを……


「あーごめん!私明日バイト早いから、抜けるね!」


 そう言って帰ろうとする黒髪が1人、そう乃愛(のあ)である。


「え??乃愛ちゃんバイトしてるの?」

「ま、まあ夏休みの間だけだけど」

「すごーい!!どこどこ??今度遊びに行く……」

「い、いやそんな凄いところではないから……それじゃあね!!」


 乃愛は追及をかわして駅の方へ向かっていった。先に帰ろうとしていた俺の方を見て、少し足を早くしていた。一緒に帰ると思われたのか、牽制するような態度だった。いや別に、俺はただ家に帰ろうと思っただけなんだが……そんなこちらの言い訳をさすように、乃愛はすれ違いざまに呟いた。


「静かにギロチンを待つよ」


 死を連想させる言葉に、思わず声をかけたくなった。


「にーくらは参加するのー?」


 古森(ふるもり)のこの声に反応しようと思って、それでも躊躇った俺に向けて、乃愛は振り向いて手を振った。


「ばーいばーい!!」

「楽しかったよー!!!」

「また学校で会おうねー!!」


 みんなはそんな風にお別れの言葉をかけていた。極々普通の、この後でまた再開することを確信しているかのような返事だった。でも俺は、そうは思えなかった。俺だけに対しては、そんな視線をしていなくて……


 家に帰ろうと思った。彼女の後を追おうと思った。そう決意した瞬間に、右手がギュッと覆われた。


「ほ、ほら……ね?もしも何も用事がないんだったら……花火、行こうよ」


 握ってきたのは近藤(ちかふじ)だった。上目遣いをして、こちらを伺うように圧をかけていた。彼女の目に映る自分は、一体どんな人なんだろうか。その辺の、音楽家にもなれないようなモブに対して向けられた視線ではなかった。


 ではなかった?


 勘違いだったのかもしれない。そんな視線なんて一つもなかったのかもしれない。かつてモーツァルトになろうとした自分と、同じ過ちを繰り返していたのかもしれない。乃愛に対しても、そうかもしれない。


 脚光は人を狂わせる。かつてならここで彼女に駆け寄っていたのだろう。まるでそれは、王女様を心配するかのように。そうだ。そのミスはもう痛感した。二度目(むだなこと)はしない主義なのだから、次こそは間違えない。


 俺は握られた手の引っ張られるままに河原へ向かって歩き始めた。夜風がやたらと厳しく当たってきたのも、多分 気のせいだ。

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